アマガミSS 第四話 レビュー (前)


第3話「ヤキモチ」 目次

「あなたも、見にきたの?」
「えっ?」

「ほら、あの海の向こうに、おっきい山が見えるでしょ?」

「本当だ……」

森島はるか編 最終章 「レンアイ」


オープニング

柳田國男です。

折口信夫です。

最終章なので、特別ゲストをお招き頂いております。

南方熊楠です。

聞いてないですよ。

わしの先輩やね。

ども。今日は粘菌よりおもろいものが見れる言うんでね。

本当によかったんですか、大丈夫だったんですか。

久しぶりやね、孫悟空君。

釈迢空です。

まあ良いでしょう、始めます。まずはアバンから。森島と橘は、実は以前会ったことがありました。という内容。

1話で、「どこかで会った事あったっけ?」って聞かれて、いや、なかったって会話をしてる。でも、それは嘘やったんですねえ、橘くんの。

意地の悪い取り方をすれば、二人の仲には、その始まりに虚偽があった、という風にも言える。

ただこれ分からなくもないとこでね。パン拾ってくれた人に、一年前の、ちょっとしたすれ違い様の会釈みたいなのを、「あの時こうこう!」とは言えへんですよ。

なるほどなあ。

南方先生、ところでこのアニメはどこまで?

ん、この回で初見やね。

誰が何しに連れてきたんや!

ふふ、そんな事言うてええんかな? 熊楠先生はわしより大物やねんで。

大丈夫よ、ぼくは女の子がエロければ、話わからなくても楽しいですよ。

アバンの要所、海の向こうの山です。これのおかげで全26話の中でも最も謎めいた導入部になってます。

番所山から見える神島ですね。

和歌山じゃないです。それ先生の地元ですよね。

どうみても島やけど、山なんやな。天気のいい日にしか見ることができない、海の中の山。じつに意味深ですね。

意味深なのに、これっきりなんです。今後このアニメでこの山は見えないんですよ。

ええ、見えへんの?! どう見てもオチ要員やのに?

いや見えないんです、これは最後まで。というか最後らへんはいろんな意味で山とかどうでもよくなるんです。

そもそもこの公園に来えへんもんね。この後、実質第6話だけでしょ、この公園にやってくるの。あとは隠れヒロイン編の第25話まで出てこない。

人探しのついでに寄ったり、下の階段で待ち合わせたりする事はありますけどね。それでも棚町薫編までです。レストラン「トトス」のほうがまだ全体的に登場頻度が高いかもしれない。

薫ちゃんだってあれは寄り道で連れてきただけなんで、橘くんの方にもこう昔の思い出を上書きする的な? 含みは無いんですよね。逆に言えば、橘くんにそういう嫌らしいところがあるのははるかちゃんパートだけです。

海に浮かぶ山というと、やはり妙高かな。

須弥山ですか。世界軸ですね。

二人して世界の真ん中を見ているわけね。それは、非常にしばしば、世界が生まれる場所でもある。

海しかなかった世界に、神が降り立つために、山ができる。オノゴロ島なんかはそうやね。んで、その山で海をかき混ぜて、神々や天体が生まれる。

乳海攪拌ですね。でもこの山は、本当にこの場面だけなんです。二人の物語の中心点というわけでも、帰結点というわけでもない。単純に最初の一発です。

最初の一発としては、すごい大きいもんを持ってきましたね。他の女の子の話では、この山も、この山に準ずるものも出てこないんでしょう。とすると、なんではるかちゃんだけ、こんな仰々しなるんかね。

その辺も踏まえて、二人にとってこのイメージがどういう意味を持つのか、あくまで二人の恋愛話ですから、それはもう一回後で検討してみましょう。


放課後、橘を買い物へ誘いかける梨穂子と美也。
橘ははるかを待っていたのだが、この日はさくっと諦め、買い物に付き合うのだった。

こいつ余裕でてきたな。

元々けしてモテないわけじゃないですからね。ただ今までは森島に一喜一憂するのに忙しくて、こういうのは上手く相手できてなかった。そういう意味では余裕の産物ですね。

やっぱり不要ながっつきが無くなるわけですから、態度も自然になるし、ほどよい距離感も掴めるようになる。すると女の子側も寄ってこやすくなりますよね。結果どんどん女の子と遊べる。彼女持ちの好循環ですね。

話がぐぐっと形而下になったな。

前のカットで、下校するモブに混ざって中多紗江がいますが、もうお互い気付かないですね。

逢ちゃんとはすれ違いすらせんですね。だいたいどのパートも最終章ではメインヒロインと二人の世界になりますから、その時その時で他の皆がどれくらいの距離にいるのか、比較してみるのも面白いですね。


橘「もうすっかりクリスマスモードだなー」
梨穂子「そうだねえ、もうすぐクリスマスだからねえ」

えっ、何?

ここ、ビックリするよなあ。


クリスマスが近づいている。早くはるかをクリスマスデートに誘わなければと焦りだす橘。
その矢先、ゲーセンでプライズゲームをやっているはるかを見つける。

妹に今年も一人かー言われると、ちょっとムッとして「今年は僕だって!」と強がる。

梨穂子がちっちゃく「ふぇ?」って言うのがええですね。まぁ聞き捨てならんですわね。

すぐに美也が別の話題を振ってうやむやにさせてしまうんですけどね。結局次の場面ではケーキの話に移ってる。

なんかかわいそやな。

森島はるかちゃん!

おお、この子ね。なんや道端で会うてしまうんか。このタイミングで偶然会わせるってのは何か意味がありそうですね。

いや、基本的に全部偶然ですね。

回数話数遭遇の仕方
11話A通学路で偶然見かけた
21話A食堂で偶然見られた
31話A廊下で偶然会った
41話A図書館で偶然会った
51話Bグラウンドで偶然会った
61話B放課後に偶然会った
72話A保健室で偶然会った
82話A体育館で偶然会った
92話B登校間際に偶然会った
102話B廊下で偶然会った
113話A廊下で偶然会った
123話B橘から会いに行った
133話Bはるかから尾行してきた
144話A(回想: 公園で偶然会った)
154話A道端で偶然会った

何やこれ! ちゃんと会いにいけよ!

あらためて見ると壮観やな。徹底しとるわ。

たとえば絢辻と棚町はクラスが同じで、桜井は幼なじみ。中多と七咲は妹の親友と、何やかんやで会う機会があるんですよね。森島だけ実は橘と何の接点もない。普通に生きとったら会わないんです。

だから放課後に校庭で待ってるわけね、そうでもせんと会われへんから。でも今回は別の子についていってんですね。

表を見ればわかるけど、3話で「冒険」から帰ってくると、自分たちの意思で会うようになるんです。でも4話になると何故か戻ってまうのよ。

そもそも最終章でヒロインじゃない女の子と遊ぶのって、ここ森島はるか編だけなんですよね。いったい何なんでしょうね。


すごい勢いで二人をごまかし、はるかの元へ駆け寄る橘。

突然のことにガクガクんなって「アァ……アア?」としか言えなくなる橘も橘ですが、「アがどうしたの?」って聞き返す桜井がまた……。

これ橘くんは若いからいいんですが、わしらおっさんがこれやるとね脳卒中ですからね。みんな気ぃつけてね。救急車呼ぼうね。

年とると医学が怖いよな。

そんなこんなで、クレーンに釘づけになってる森島に、後ろから近付いて、こう。


(橘)「キレイなお姉さん、ボクをここから出してクマ!」


「ええ~~~~?!」


取れた。

取れたクマ。

何だよ! 何なんだよ!

ほんまええ事しか起こらんな。天佑に恵まれている。

わおわお言いながら大はしゃぎの森島。「君がおどかしてくれたおかげで、偶然取れちゃった!」と感謝します。ここいらでタイトル。

「アコガレ」から「セッキン」、「ヤキモチ」を経て、ついに「レンアイ」と発展しました。今までのは恋愛ちゃうんかったんかって話ですけど。

ここまで動物といえば犬、犬、犬と、犬尽くしでやってきたんですが、これだけ熊になっています。犬のキーホルダーも景品としては入ってたんですけどねえ。

ここは象徴的に狩りをやってるわけでしょう。犬は狩る方の動物やから犬を取っちゃうと狩りにならない。

熊狩りですね。熊といえば狩猟の獲物としては究極で、それをたまたまそこに居ただけで仕留められる位、橘くんの神通力が最高潮に達している。

でもって、このゲーセンの名前、「GAME LUNA」って言うんでしょ。月に熊に狩りときたら、女神アルテミスのことに他ならない。

アルテミスは処女神であると同時に、多産をもたらす地母神でもある。この先起きる事を暗示してますな。


せっかくなので、ゲームセンターで遊んでいく事にした二人。
二人でできるものを、という事で、イニシャルを使った相性占いをやってみるも、結果は30%とふるわない。

アルファベットを四つ入れて、それで数字が出てくるだけで、100円!!

その辺のフラッシュでもこれよりは凝ってるよな。診断メーカー以下やわ。

ふだんゲームしない人にとっては余計な操作ができない方が逆にゲームっぽく感じられるというのはあるんで、これはこんなもんかもしれませんね。

時代的にインターネットが普及する前やから、こんなんでも成り立っとったんかもなあ。今ならこれで100円はありえへんわ。

まあ、わしらの若い頃なんか、今でいう面白GIFくらいのものを活動写真や言うて二円とか一円五十銭とか払わされとったからね。昔と比べたらあかんわ。

わはは、先生それ昭和一ケタの時の話でしょう、ははは、若い子わからへんわそれ。


「もっかいやる!」

いいねえいいねえ!

占いの結果に不服そうな森島に内心嬉しくなる橘。「結果は同じだと思いますけど……」と言いながら更にクレジットを入れます。

違ってたらそれこそ金返せっちゅ話やからね。でも、占いの数字はそういうプログラムになってるってだけですけど、はるかちゃんの不機嫌は生身の感情ですから、そら嬉しいに決まってます。

もう一度イニシャルを入れはじめる二人。しかし今度は森島がさっきと違うイニシャルを入れるんですね。すると……。


イニシャルを変えると、相性は95%に跳ね上がる。
「やったぁ、大成功ね!」と喜ぶはるか。

森島はるかだからイニシャルは H.M です。これが M.H になるならまだわかるが、L.H はどこから来てるのか。

ラブ・ホテルやね。

同じ事思った!

ホテル行くのはこの後ですね。

マジで! ……マジでえ!

とゆわけで、「Lって何ですか?」と森島に聞く橘。するとこう答えが帰ってきます。


「Lはね、ラブリーのL!」
「私の本名は、森島・ラブリー・はるかなの。ラブリーはミドルネームってやつね」

衝撃の新事実に「先輩ってハーフなんですか?」と驚きを隠せない橘。実際は母方の祖父がイギリス人なので森島はクォーターというとこらしい。

ハーフなんですかって、相手目ぇ碧いねんで。気付くの遅ないか?

ラブリーって名前ありえるの? 森島かわいいちゃんみたいなもんでしょ?

どうですかね? ちっちゃい頃に祖父にラブリー、マイラブリーみたいに呼びかけられて、ラブリーっていう名前なんやと勘違いしたとか?

子供の頃ならともかく、高校生でその勘違い続いてるんなら割とアホですよね。

ファーストネームやなしにミドルネームってのがミソなんかね? よう知らんけど、ミドルネームって人によっては何個もつけたりして、こう自由な感じするやんか。

それか、スペイン語圏みたいに、名字の方がミドルネームになってるって可能性はないんかね。つまり母方の名字がラブリーなのよ。

あるの? ラブリーって名字が?

イギリスではわかりませんが、アメリカだと国勢調査局の統計で、LOVELYという名字があるのは確認できますね。

あるんや! ミスターラブリーやミスラブリーが、アメリカには!

そうするとあれか、はるかちゃんの両親は森島家とラブリー家の結婚だったわけですね。


占いの結果に満足し、帰路につこうとするはるかを、橘が引き止める。
「今度は僕に付き合ってくれませんか?」

ここまでがゲーセンのシークエンス。

おお、橘くん、勇気出したな!

3話の終わり辺りから、森島は橘のリードをすごく待ってるんですね。彼の提案なら何でも乗るモードになってる。なんでこんな力む事もないんですよね。

それをまだ橘くんはわかってないって事でしょうね。それに本当の目的は、今ここで付き合ってもらうんやなくて、クリスマスに付き合うてくれと頼む事ですし。

さて、ここまでで大体全体の4分の1くらいですかね。他のヒロインのエピソードと比べると、割と回り道をしてるなという印象です。

そう? でも名前を教えたよね。

本当の名前を教えましたね。その上自分の来歴まで明かしている。1話Aパートで、橘くんが自分の名前を教えました。ここでやっとそのお返しが来るんですよ。

1話では、塚原の協力で、橘が自分の名前を教えた。でもあの時、森島は教えてないんですよね。橘が事前に知っていたから。でも、それは森島の「本名」ではなかった。ある意味初めてお互いイーブンになるんですね。

んで、その事前に知ってた名前の方だと、占いの結果すごい悪かったわけや。「本名」の方だと95%出るのにね。

ちょうど一回目と二回目の告白みたいですよね。名が体を表わしてる。橘くんが事前に知っていた名前とは、イコール橘くんが事前に知っていたはるかちゃんなんです、学園のマドンナとしての、勢いで告白した森島はるか。

恋に恋してとりあえず好きになった森島と、知り合ってから、仲良くなってからの、その人として好きになったラブリーってとこでしょうか。そうするとなかなか印象深いシーンですね。

そもそもアルテミスの場所で、キューピッド、つまりエロースに占ってもらってるわけでしょ。要は神託をもらっているわけで、これは重要なシーンですよ。

盛りますねえ。

いや確かに、このゲーセンでのやりとりは、第4話だけでなく、森島はるか編全体を読み解くキーポイントとなる場所ですよ。まあ、その辺は追々見ていきましょう。

それにしても、後ろの男三人はえらい殺伐やな。女とか連れてきよってみたいなオーラがギンギン出とるわ。

まだまだ格ゲーが元気な頃ですかね。何気にワイン持ちしてるのが細かいな。


「めずらしいわね、君がこんな風に誘ってくれるなんて」
「……ここに来るの、久しぶり。昔は毎日来てたのよ」

初めて出会った場所へ。

おっ、はるかちゃん、さっきのクマをカバンのチャックにつけてる。これは橘くん嬉しいね。

ファスナー。

オシャレか! 折口君、……オシャレか!!

自分が取ってあげたものが、相手の日常の一部になる。これはもう、すごい良いね。嬉しい事ですよ。学校指定のカバンてのがいいんですよ。青春かつ恋愛ですよ。

冒頭で述べた通り、海の向こうの山は消えています。「今日は見えないですね」と切り出す橘。しかし、単に見えないという訳ではなくて……

明らかに代わりのものが見えてるんよね。煌々とした夕暮れの太陽が見えている。最初、海と山やったのが、海と太陽に変わってるんです。

作劇としては、同じ山が見えとって、あれを教えてくれたんはーと切り出す方が、ずっと自然やと思うんですよね。それをわざわざ変えてきてる。

変える理由があったって事ですよね。ただどうもその理由を本編中では説明してくれない。見てる人が読み解いていかなあかんですね。

海と溶け合う太陽てのも、これはこれでまた意味深なもんやもんね。見つけた、何を、永遠を、みたいなね。

森島に、二人の最初の出会いを明かす橘。それは一年前の、同じような夕暮れの中の事でした。


「……天気がいい日は、海の向こうの景色が良く見えるのよ」
「そうだったんですね、全然気付きませんでした」


「やっぱり、似てる」
「ん、僕、誰かに似てるんですか?」
「あのね、うちで飼っていた犬に良く似てるの」


(風)

うおお、あ、ありがてえ!!

初対面でひどい事言うてますね。

全然ひどないよ、何を言うてんの? こんなんむしろ最上級でしょ。

ホンマやで、こんなん君ぃ、一生に一度言われたら上出来なくらいやで。

すみません。


「そんな、困ったような顔が特にね。フフ、ごめんなさい」


「ハ、ハハハ」

お前のしょぼくれヅラは犬にそっくりやな言われてこの笑顔やわ。

全然わかるよ。わし、全然わかる。あの頃のわしも同じ笑顔しとったわ。

しかも、それを振り返って「あの時、僕は落ち込んでて、でも、……おかげで何だか楽になったんです」でしょ。罵倒されて元気になる。ぼくら側の人間やな。

「声をかけてもらったおかげで」ですよ。何で勝手に削るんですか?

「ちょっと待って! じゃあ橘くんがあの公園くんだったの?」


「ええっ?」

出たー、「公園くん」!


「あのね! 私あの日のこと印象深くて、それで面白い子に会ったって人に話す時にね、
名前がわからなかったから、公園くん、て勝手に名前を付けてたの。それが君だったのね!」

すごい勢いでまくしたてる森島。よっぽど嬉しかったのか。

一度会った人はけっこう憶えてる、ってのは案外ホンマやった訳やね。まあ肝心の顔は忘れてたみたいやねんけど。

面白い子ってどういう事? 面白い事何もしてないよね。オウム返しして笑うてただけやんか。

みんな何もできんくても、おもろい人や言われたいんです、それが今時の欲望なんですよ。

しかし、森島は「大食いくん」だったり「公園くん」だったり、何でもくん付けなんですね。何かこうウシジマ君のセンスですね。

まあ、ウシジマ君やなくても、こうポンと「公園くん」言われると、ちょっと色々デリケートですよね。


「ケニーん家みたいな臭いがするぜ!」

なんか見えたで!

陽気のせいです。続けましょう。


橘と初めて出会った夕暮れ、なぜ自分が公園に来ていたかを説明するはるか。
実はこの公園は、一年前のクリスマスの日に亡くなった、彼女の愛犬との思い出の場所なのだった。

やっぱり犬を飼っていたんですね。

3歳の頃から飼っていたという事は、高2の頃だと14、5歳くらいかね。これは寿命ですかねえ。

この公園はその犬のお気に入りの場所でした。「昔は毎日来てたのよ」ってのは、つまり散歩に連れてきとったわけで、家族の中で彼女が毎日散歩をさせていたんですね。

さっきから次々と自分の事を打ち明けているはるかちゃんですけど、中でもこれは決定的ですよね。はるかちゃんもまた、クリスマスに痛みを抱えている人だったんです。

辛い思い出を持っているのは橘だけではなかった。というかデートをバックレられたのとペットロスとじゃ割と比較にならんですよね。

しかも時系列的には前の日の学園祭でミスコン二連覇してるわけでしょ? 優勝して帰ってきたら次の日は犬が死んでるんやから、これはかなりヘビーですよ。

最愛の犬が亡くなって、この子はとても哀しかったんでしょうねえ。

その時、響ちゃんがどれほど支えになってあげた事か、つい勝手に想像して、ほろってなってしまいますね、私なんかは。でも、実ははるかちゃんはこれを一人で乗り越えるんです。

愛する者を失うと、何を見てもその者を思い出すんですよね。だから「思い出す度悲しく」なる。でも、いつかは受け入れなきゃいけない。

それに自分で気付ける子なんですね。そして行動する。しかも、今すぐ乗り越えなきゃとか、受け入れなきゃとかいうんでもない。とりあえず元気を出そうってところから始めるんですね。

それでもって、一番辛い場所であるはずの公園へわざわざやってくる。哀しみとの付き合い方という意味では、橘よりもずっと強いですよね。


「そしたら、ジョン(犬)が大好きだったこのベンチに座ってる男の子がいるじゃない」

ちょうど橘くんも公園には来てた。けど、単に思い出し凹みに来てただけなんですね。まともに動けるまでもう一年かかる。まあこういうは本当に人それぞれなんで、比較するのは非常によくない事やねんけど。

まあそのしょぼくれてる姿が、自分とこの犬に似とって声をかけてしまうんですから、橘にとっては結果オーライですけどね。

それで二人で初めて言葉を交わすところがさっきの場面となる。あの場面で、はるかちゃんにどことなく影があるような感じがしたのは、偶然ではなかったんですね。

まんま見た目からして顔が影がちになってますでしょ。顔の半分が影になってる。過去三話では二人が話している時、基本的にはるかちゃんは順光だったんです。顔に光が当たっていた。あの影はけして偶然じゃないですね。

クリスマスに犬が死んで、ここではまだ冬ですから、まあ一ヶ月か二ヶ月経ったくらいかな。それで、この後はちゃんと乗り越えられたようですね。

他のパートを見てみると、橘がいなくても、森島は学園祭で三年目のクリスマスイブを目いっぱい楽しんでます。完全に克服してますね。

というより、そんな事があったんかってくらいに、昔の哀しみも克服した事もおくびにも立てない。強い子ですね。

女の子はみんな強いよ。

うわ、なんかムカつく。


「きっと、ジョンが橘くんと私を会わせてくれたのね」

聞いたか? なあ聞いたか今の? わし言うたよね、犬の力って、わし言うたよね? どうですかこれ! な?

私別にあん時何も言うてないですよ。

犬は呪術的な力を持っとるからね。犬(DOG)をひっくり返すと神(GOD)になるって話、したっけ?

それは、柳田先生から……。

わしが先生に手紙書いて教えたんよ。あん時はえらい驚きはったわ。

ジョンは適当な名前の割にはずいぶん愛されとったんですね。どんな感じの犬やったんやろね。なんとなく大型犬かな。

2話で、森島が犬の雑誌を見て「このワンちゃん、あの子に似てるかも」って言うところがありますね。あの子ってのは橘の事で、橘はジョンに似てるので、つまりあの犬がジョンに似てる。

あれも案外適当なセリフでも無かったんやな。

自分の話を終え、「あの時なんで橘くん落ち込んでたの?」と聞く森島。橘は「僕は、二年前のクリスマスに、この公園で待ち合わせをしていたんです」と答えます。

するとねえ、はるかちゃんの反応がねえ。


「へえ~。それって、……女の子?」

イエエエーーイ! やったあー!!

ビックリするくらいベタ惚れですよね。橘からはあまり誘ってもらえないみたいな事は言うてましたが、何をこんなに焦る事があるのか。

すごいちっちゃいけど、すごいちっちゃいねんけど 、頬のところに汗が描いてあるのね。もう、ほんの数ミリの白線ですけど、これが無いのとあるのとでは0と1ですよ。

死んだ犬の話の時はあんなに落ち着いてできたのに、こっちの事になるとここまで動揺を隠すのがヘタクソというのがね、たまらないですねえ。恋の低偏差値やね。


「でも、すっぽかされちゃいました」

なんでちょっとカッコええの?

振られてからというもの、それから一年は使い物にならなかった。それを救ってくれたのが、あの日も森島だったと橘は言うんですね。それで、「また僕を救ってくれませんか」とデートに誘う。

え、そんな誘い方? え、重い、重いよ! ちょっと断わりづらいし、言い方もなんか酔うてる感じする!

去年は言葉をかけてもらっただけで救われたのに、今年はデートしてもらわんと救われへんねんな。やらしい奴ですわ。

友達思いの梅原がおって、気遣いの優しい棚町がおって、想いをかけてくれる桜井がおって家に帰れば妹がおるのに救われるのは通りすがりの美人やないと救われないっていうのが橘の人づきあいですね。

それではるかちゃんは何ていうの? こんなんでOK出してくれるの?


「ダメ」

イエエエーーイ! やったあー!!

正義は執行されたな。橘くんは家に帰って自分でも救っとけばええねや。

ただ、残念ながら橘がしょっぱいから振られたわけではないんですね。何でも森島家では、「クリスマスは毎年、イギリスでおじいちゃんとおばあちゃんがきて、家族でパーティーしてるの」との事で。

その辺は欧米風やねんな。考えてみると、薫ちゃんも逢ちゃんも普段は家族で過ごす派やったね。案外多いねんな。

ほーう……? まあ、家族で過ごすんやったらしゃあないな。それが本来の過ごし方やし、水いらずを邪魔するわけにもいかへんもんね。残念だが橘くんには日を改めてもらいましょう。


「だから、ねえ、うちのパーティーに橘くんをご招待したら、来てくれるかな」

なんですとオー??!

なんてことや……家族で過ごすって決まりでも、橘くんが家族になれば何の問題もない訳や。決まりも守れるし、橘くんとも遊べるし、外堀も埋められる……最初から、最初から一緒におる気まんまんでいらしたんや……。

それでOKなら「イブを一緒に過ごそ」と、ダメ押しするのも忘れません。一瞬で元気を取り戻しビン立ちになる橘。


「はいぃ!! よろこんで!!」
「……フフ、フフフフ」
「え、えへへへ……」


「「ははははは」」

神も仏もおれへんのか……!

いや、神はおるんや。ただ我々の神ではないっていうだけやな。

Aパート終わり。


アイキャッチ

モリシマハルカー♪


日は変わってクリスマスイブ。暮れなずむ街をひたすら走る橘の姿があった。
「やばい、待ち合わせに完全に遅刻だ!」

救ってくれとまで言うといて堂々の遅刻中。そういや、待ち合わせで橘が遅刻するのもこのパートだけでしたっけ。

一応、紗江ちゃんパートで二回待ち合わせて二回とも後からやってくるんですが、あれはどっちもオンタイムですね。

「美也が変な事言うから!」って、さらっと人のせいにしとるけど、美也ちゃん何を言うたの?

これはですね、完全にノークルーなんですよね。私も一応思うところが無いわけではないんですが、本当にただの憶測になってしまうので……。

クリスマスの過ごし方は3パターンあって、学園祭で過ごす(A)、学園祭で過ごしてから外で遊ぶ(B)、外で遊ぶ(C)。で、C(森島・棚町)→B(中多・七咲)→A(桜井・絢辻)と進みます。

待ち合わせをするのがはるかちゃん、薫ちゃん、紗江ちゃんの前半3ヒロイン。紗江ちゃんが昼、薫ちゃんが夕方、はるかちゃんが見ての通り夜ですね。夜の駅前。

これJR銚子駅ですよね? 風力発電機も出てたし、舞台は銚子って事でええんかな。

学校をはじめ、風景の多くは銚子市から持ってきてますね。ただ銚子市はここ三十年ホワイトクリスマス来てなくて、十二月に雪降ったのすら81年94年09年の三回しかない。なので、まんま銚子市という訳でもないですね。

80年代って三十年前なの? え? マジで?


息を切らしながらはるかを探す橘。しかし、先に見つけたのがはるかの方だった。
「こんな日に女の子を待たすなんて、いけない子ねえ」でも頭から湯気が出ていたので許した。

「いけない子」やて! うへへ、「いけない子ね」やて!!

また白いコートが似合うんやわ。なんか成金じゃない金持ちって感じするでしょう。10代とはとうてい思えへんな。

とりあえず頭を下げるしかない橘。そしたら頭から湯気が出てて、そんだけ汗かいて必死やったらまあええわってなる。

なー。しかもその汗拭いてもらうねんで、相手のハンカチで。なー。

まあ、基本的にこのアニメでは、橘くんが何かに失敗するってのは、その後何かラッキースケベ的な事が起きるという前フリなんで、そういうもんやと思って見た方がええですね。

何かに成功した場合はどうなるの?

何かラッキースケベ的な事が起こりますね。


いよいよ始まった二人のクリスマスデート。
まずはホテルにやってきました。

えっ? 何これ、えっ、これ一発目? あれ? えっ、いきなり? あの、えっ、お茶とかすら無しで? そんなに性欲が?


「汗くさいボーイフレンドを家族に紹介できないじゃない?
だから、ここでひと汗流していきましょ」

エ、エ、エエエーーーーーーッッ!!!!

先生、橘と全く同じリアクションですね。

ここでそれ以外のリアクション無理でしょ。ま、わしなら軽く「ひと汗かいてく、の間違いやろ?」と返しますけどね。

何気にボーイフレンドって呼んでるところもポイントでしょうか。で、「あの、先輩はいいんですか?」と声を低める橘ですが、森島の意図は別のところにあって……。

うまい! 國ちゃん上手いわあ、あくまで軽く言うのがいいね。そうゆうの女の子は弱いよな。うん、うん。


(橘)「水着のレンタルがあって助かった……」
(橘)「まさかホテルのプールで汗を流すなんて」

エエーー、……?

これでクリスマスでも水着回ができる。

ああなるほど! なるほどなるほど! なるほどーー!!

12月の話ですけど、これまでの三話で二回水着出てますからね。その気があれば何だってできますね。

しかしこのホテルデカいよなあ。ここ付属のプールやのに、見て、人間の大きさあんなんやで。弁天町のプールよりデカいでしょこれ。

風力発電で儲かってるんで、箱モノはとりあえずデカくなるとかじゃないですかね。

え、そんな原発みたいな、ていうかここ民営ちゃうんかったんか……。

まだかなまだかな水着はるかちゃんまだかな? もうぼく13秒も待ってますよ。100メートル走り切っちゃってますよ。

「  お  ま  た  せ  ー  」  

来た!


*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜


*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜


「あたらしい水着なんだけど、どうかな?」


…………


デブ「うわぁぁーい」


ザッパーン

これが、メタファーの力だ。

なんと……なんとたわわであらせられる事か。それにこのポーズの取り方、完璧にプロ……。

ビキニのインパクトに聞き流しそうになりますが、わざわざ新しい水着を持ってきてるんですよね。だから、橘が汗かいてたの関係なしに、最初からこのプールに連れてくるつもりだった事がわかる。

そんでもって「悩殺しちゃったか☆」とか、「すぐ褒めてくれたらいいのに」とかでしょ? この子やっぱ自分の武器を、その使い方を知ってるんですよ。今日ははるかちゃん刈り取りに来てますよ。

これ以上直視していたらジェントルメンとしての尊厳を保つ事が不可能と判断した橘、「泳ぎましょう!」と叫んでプールに飛び込みます。ニヤっとして「待ってよー」と嬉しそうに後を追いかける森島。

ちょっとな、元気になってしまうからな。こう、体の一部がな。手遅れにならんで良かったよ。

いやよう我慢した思うで。ぼくの一部も半ぶん元気やもん。


手をつないで浮かせたり、水をかけてふざけあったり、水中でにらめっこしたり、ウォータースライダーに乗ってすべったりだ。

……ぼくもな、しょうらい高校生んなったらな、女の子とこういう事したんねん。

外はクリスマスなのを忘れるほどプールデートを楽しむ二人。中にはこういう場面も。


(一緒に泳いでるだなんて、現実とは思えないな……)
「こぉ~ら~」


「私といるのに、他の女の子見たりしないの」

おお、おおお……!!


「違いますよ! 見てないです! ていうか、目の前に先輩がいるのに、他の女の子なんか見る必要ないです!」
「そ、そお? ……ならいいけど」

この表情!!

ボーッとしてただけなんですけど、ちょうど目線の先にビキニの女性たちがおった。今回ばかりは本当に下心がなかった橘、必死の弁明。

いいですねえ、非常にいいですよ。前回「ヤキモチ」やったらしいけど、むしろ今回持ってきた方が良かったんちゃうんかね。

占いが悪かったら機嫌悪なるし、昔の女の話の雰囲気になると途端にキョドるし、クリスマスデートに遅れてきてもすぐ許しちゃうし、前のめりに先回って嫉妬するしで、確かにどうしたもんでしょうかね。

あれほど無敵だったマドンナがここまで落ちて、主人公は相変らず唐変木で、なぜか我々が優越感を得る。良くできたシステムですよ。

こんな感じで汗を流し、プールを後にした二人。物語はいよいよ佳境へ入ります。


はるか「ごめ~ん、着替えるのに手間取っちゃった」

なんやそれ! はるかちゃん、なんやそれ!

なんで……着替えるん手間取ったんやろね。何か……トラブルがあったんやろね。何かが……慣れへんかったかもしれんね。上着は……変わってないのにね。

先に言うときますけど、下に何着てようが、この先いっさい映らないですからね。何でも一緒です。

折口君……!

(@1) 折口君、それは違うよ。それはわかってない!

下着はいっさい見せへんけど、着替えには手間取らせる。この描写こそがスイなんですよ。モノではなくコトなんですよ。「わが衣手に雪は降りつつ」ですよ。

たとえば画面一面にはるかちゃんのパンツが映る、それは嬉しいし、エロいねんけど、同時にそのパンツがもっていたエロさはそこで閉じてしまうんです。それはもう何とも響き合わないパンツだ。そのパンツはもう何も生み出さない。

わ、なんか同時にしゃべり出した。

まだ見えないパンツに対して、ぼくらはそれと対話し、それと戯れることができる。一方、見えてしまったパンツに対しては、ぼくらは拝んで通り過ぎるしかできないのです。

パンツがただパンツである限り、それは代替可能なものです。寝たきりの病人がおる。これはパンツです。外には雪が降っとる。これもパンツです。でも、「いくたびも雪の深さを尋ねけり」と詠むと、これは百年残るのです。

ぼくらはパンツのみに嬉しさを感じるのではない。時にそれはただの布、ただの絵です。そうではなく、パンツに付随するもの、パンツによって想起されるものこそ、ぼくらを衝き動かす原動力となるのです。

なんか、一歩進んだ的な言い方になってますけど、それむしろ一歩退化してますよね……。


九鬼周造は色気について、自己と異性の「二元的可能性を基礎とする緊張」と定義し、その「可能性を可能性として擁護すること」を媚態の本領とした。
九鬼によれば、縞模様は「二元性の最も純粋なる視覚的客観化」であり、建築における茶屋、音楽における清元・哥沢と同じく取り扱われるものである。

先生、こないだまでパンチラチャーンスとかクソッとか言うてましたよね。

考えが変わったんや。男子三日会わざればってやつですよ。


「待ち合わせの時間はまだ大丈夫なんですか?」「あーそっか、忘れてた!」「忘れちゃダメですよ、先輩!
……で、待ち合わせの時間て何時だったんですか?」「んー、一応予定だと、一時間前!」「げええっ!
……集合場所はどこなんですか?」「えっとねー、ここ!」「えええ~~!??」

この子大丈夫か?

ここはですねえ、第4話で一番、はるかちゃんがはるかちゃんっぽいところですね。

どっかで見た流れと思ったら、2話で好きなタイプ聞いてた時のノリに似てますね。思えば1話とか2話はずっとこんな感じでしたね。

確かにはるかちゃん、ものっそい楽しそうやけど、今わりとシャレにならん状況ですよね、何やろ、これがシャレで済むような親って事? この子にしてこの親的な。それとも……。

あーそういうわけではないんですけど、それはそれで何かいいですね。想像が広がりますね。

親の顔が気になるヒロインばっかですからね。まあ一番気になるのは橘の親ですけど。

とりあえずここは、橘くんをひっかき回して楽しそうにしているはるかちゃんをひたすら愛でておきましょう。「えっとねー、ここ!」って言うときの目の動きなんか、本当にチャーミングなんですよ。

もうちょっと、このままイジって遊びたかったんやろなーって気はしますね。しかし、わけがわからないなりに遅刻している事だけは確かだと悟った橘、どさくさに森島の手を掴んで、エレベーターに乗り込んでしまいます。


「もう、強引なんだから」

これはBパート始めのこのシーンに対応してます。

ああ確かに、最初はるかちゃんが橘くんの手ぇ引っ張って、それでデートが始まったもんね。それがここでは逆になってる。エレベーターのドアが閉まる演出とも相俟って、つまりこっから別のデートが始まるんですね。

同じような引っ張り-引っ張られの入れ替えって第3話でもあったんですよね。その後二人は金網を越えて別の世界に渡っていった。この後に起こる事もまあ似たようなもんです。

ここでは橘が無意識に引っ張ってるってのが一つの違いでしょうか。ただ中身は依然へたれなんで、強引や言われたらバッと手を離して「すみません」て謝ってしまう。

別に繋いだまま謝ればええのにな。

まったくその通りですね。

森島は慣れたもんなのか、あまり気にならない様子。エレベーターのガラス越しにツリーを眺めて、「どんどん昇っていくね!」と上機嫌に当たり前の事を語りかけます。一方橘はここで信じられない新設定を明らかにする。


(ううっ、僕、高所恐怖症なんだよね……これは怖すぎる!)

いらんことすんなよ!

アマガミSSの中でも屈指の不要感を誇るキャラ設定、橘純一の高所恐怖症です。ぶっちゃけこの後2回くらいしか使われません。

これはねえ、ちょっと出してくるタイミングが悪いですよね。24分の4話で96分のところを86分辺りで出してくる。横山三国志やったら孔明が馬謖を切った後くらいに突然新設定が出てくるようなもんなんで、まあ座りは悪いですね。

ほんまもんの恐怖症やったらまず立ってられへんし、脂汗タラタラで呼吸もまともにできるかどうか怪しいもんやと思うねんけど、橘くんこれちょっと怖がってるだけですよね。何このちょっとした味付け。

しかも3話目の冒頭で、校舎の屋上のフェンス前に立ってわーいとかやってますからね。ほとんど気の持ちようくらいのレベルなのではないか。

実際は気の持ちようくらいのものを、本人は恐怖症なみと思い込んでるところがミソなんですよ。「高さ」っていうのは案外重要で、たとえば詞ちゃんは六人の中で、唯一OPとEDの最後に「上を向く」ヒロインなんです。

先生、それ、いつ言えるかわかんないから、今言いましたね。

いやいや大丈夫ですよ。この「高さ」というか、垂直方向への動きというのはですね、この後の棚町薫編で特に念入りに展開されるモチーフなんですよ。なので詳しい事はその時にお話していきましょう。

その時って具体的に何年の何月くらいなん?

さ、さて、何か話でもしてきょっ恐怖を紛らわせようと思った橘くん、「今日ってご家族のどなたがいらしてるんですか?」とはるかちゃんに尋ねます。するとはるかちゃんの口からとっとんでもない事実が!


「あ、実はね、飛行機の都合で今日はおじいちゃんたち来られなくなっちゃったの。
だから二人っきり」

こわいなあ! 女こわいなあ!

おじんらがおらんちゅう事で両親も家におるらしい。んで予約した金がもったいないから「泊まりにきたの!」と宣われます。両親以外に少なくとも弟のさとしがおるはずんですがここでは言及なし。

偶然もここまできたら清々しいよな。しかし橘くんは現われただけで熊を獲れたあたりがピークかと思いきや、今度は空飛ぶ飛行機まで止めてしもうて、その神通力は留まるところを知らんですね。

いやいや國ちゃん何を言うてんの? こんなん嘘に決まってるやんか。

えっ、うそん? えっ……ああそゆことですか? おじんたちホンマは来てんねや。だ、だまされた……。じゃああれか、イブのパーティーは別んとこでやってんねや。

いや、イブのパーティー自体存在しないですね。


こわいっ……!! 女っ……こわいぃ!!!

いやだって、パーティーするのはクリスマスや言うとったでしょ? イブではない。ていうか、イブの事は何も言うてない。ぼく、内心脚本のミスかなあ思うとったんですけど、どうも違ったみたいやな。

ですね。さっきも言いましたけども、他のヒロインのパートだと森島はクリスマスイブを学園祭で目いっぱい楽しんでるんです。おでん食ったりミスコン三連覇したりで家族のパーティーなんて出てない。森島はイブはフリーなんです。

そんな……そんなんわからんやんか。学園祭の後からパーティーかもしれへんやんか……。

仮にイブの夜からパーティをするとしても、24話の最後を見ると、森島はイブの夜、家で塚原と長電話をしている。ホテルにはいないんですよ。そもそも家族のパーティーを家でなくホテルでやるのも不自然でしょう。

それは……家やったら、たぶん色々大変なんですよ……。準備とか……。

どうでしょうか。今見てもらってますけど、森島はホテルの部屋に入ると、真っ先に夜景が見える事に感動したり、風呂やトイレが大きい事にはしゃいで回るんです。毎年ホテルでパーティーやってる人の反応ではないですよ。

ううっ……うううっ……。

老夫婦がクリスマスパーティーに当日の便で来るっていうのもねえ。毎年やってんでしょ? 一番チケットが高くなる日ですよ。それに、年寄りが9時間の時差を飛行機で12時間でやってきて、その夜パーティできるんかね?

まあ、イブにパーティーはないですね。ホテルでパーティもないです。祖父母の当日便の話も怪しい。もっと前から来てて、25日に家で、とかはあるかもしれない。でも去年はその日に犬が死んでますよね。そん時の話はなぜ無いのか?

なんという事……。こわい……。女というのはこわいなあ……。

思うに、モテる人なんでしょう、パーティ云々は元々は体よく断わるための持ちネタやったんちゃうんかな。でもって、家族と一緒に会うならいいって条件は、はるかちゃん流の一種の試しやったのかもしれへんねえ。

というわけで橘をホテルに連れ込んだ森島。お風呂があんまりにも大きいので、せっかくだから入る事にします。

ははは、風呂がでかいから入るって、セレブなのかセレブやないのかようわかぅえええええもうお風呂入るのお!? また脱ぐの!??

あ……入浴シーンはもっとこわいな……。ここらで着替えのパンチラが一番こわいなあ……。

やっぱパンチラ大好きやないですか。


「覗いちゃダメだよ?」

あ、覗いてええねや。

その発想いつか大惨事になりますよ。


(僕も一緒に入ったほうがいいのかな……いやいや、僕と先輩はまだそんな関係じゃ!
ああでも、そういう関係になりたいわけで……って、何を考えてるんだっ!)

ああぼく、この子やっぱちょっと好きやな。

「そういう関係になりたいわけで」ってのが特にいいですよね。自分をカッコに入れてるようで、当事者としての必死感もある。この独特の必死さ加減は一つの魅力やと思います。


イブの夜が更けてゆく。

ここで学園祭、というより学園祭にいる塚原響へフォーカスが移ります。ちょうど、七咲とやっていたおでんの模擬店が完売したところですね。

スポーツ映画で、クライマックスに主人公の師匠がチラっと映る的な演出ですね。逢ちゃんについては、はるかちゃんに代わって響ちゃんの庇護を受ける事になる存在であると前回述べました。

弟を待たせている七咲を先に帰らせ、一人になった塚原は、空を見上げて「あの子も頑張ってるかしら」と微笑みます。上の場面ですね。

これはしんみりいい場面ですねえ。「あの子」ってのは、はるかちゃんの事かな? 橘くんの事かな?

これは前の話を見てるとわかりますね。響ちゃんが橘くんにはるかちゃんを任せた、というのが第3話の流れでした。頑張る必要があるのは、だからはるかちゃんではなく、橘くんです。

ここで、輝日東の街に雪が降ります。今年の冬は、二年前と同じ、ホワイトクリスマスになりました。さて、橘が頑張る事ができるかどうか、見に戻ってみましょうか。


(先輩がお風呂から出たら僕もお風呂に入るのか?……まあ確かに入らないとまずいよなあ。
……だからなんでまずいんだよ!……これはさっきと同じじゃないか……)

……。

がんばれっ……! 少年、がんばれっ……!

バチン


「え、停電か?」

おおお?

「……違うよ」


「先輩?」

ふ、ふ、ふんうおおおおおおおおおんんんっっっっ!!

おおお……おーおおおおオお……おおおお……。


「はずかしいから、わたしが消したの」

うおおおーっ、2、3、7、11、うおおおーっ、13、17、うおおおーっ、うおおおーっ。

ちょっともっかい! もっかいもっかい! ちょっと巻き戻して! もっかい!


「違うよ」


「はずかしいから、わたしが消したの」

うおおおーっ、19、20、うおおおーっ。

うおお、エロい! うおおおお、エロい! これどっから声出してん? ちょっともっかい、はやくはやく!


「違うよ」

タッハー! たまらんわぽっくんたまらんですヴァイ! ちょっとリモコン、ちょっとこっちリモコン!


「違うよ」

何回見るねん!

おんー、あぼきゃー、べーろしゃのー、まかぼだら、まにー、はんどまー、じんばらー

こんなに金属的で、冷たくて、ざらざらした声なのに。この、千尋の水底に沈み込まんばかりのエロさ。声優すごい。

「えっ、その格好は……、先輩?」
「……」


「ばか」


「どうして覗きに来てくれないの?」

うん、え?


「どうして覗きに来ないのよ!!」


(SE)「ガビーン」


(しまったあああ! 僕覗きに行かなきゃいけなかったのかあああ!!)

はーーーーーーーいぃ?

レビュー後編へ。

森島はるか編 最終章「レンアイ」(後)