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(響)「あれからもう10年かあ……」

えー、まだ本編が残ってるんですが、先生方が二人とも気が触れてしまったので、この先は僭越ながら私一人で進行させて頂きます。

というわけで、場面変わったら10年後でした。「-10年後-」のスーパーと同時に、この世界の理性を代表する人物からの「もう10年かあ」という念押しがあり、万夫のツッコミを捻じ伏せる正史感を生み出します。

ウラシマな我々を迎え入れる場所が、ご存じ1話冒頭から出てきたこの橘家ですね。10年経った割にはカーテンの色まで一緒なんですが、階段横の木が植え替わっているのと、軒先の街路樹が倍くらいの大きさに育っているのとで、実際にそれなりの時間が経過している事がわかります。


響「あなた達、上手くやってるの?」
はるか「ええ~、やだ響ったら、私たちラブラブよぉ」

そんな橘家の中にいたのはこの二人。10年の加齢を感じさせない塚原に対し、森島の後ろにまとめた髪と、赤から青(セーターからシャツ+ジャンスカ)へと変わった部屋着とが、彼女に起きた大きな変化を印象づけます。

……つまり、もう「森島」とは呼ばん方がええかも知れんという事ね。


まぁ名字なんて、籍の入れ方次第ですけども。ここのシーン、十年一日の響ちゃんの事を先に映して、はるかちゃんを後から、背中から出してくるので、より二人の対比が際立ちますな。

先生!! 先生どこから!? 大丈夫だったんですか? 先生、何ともありませんか?

……夢を……夢を見ていた気がします。とても長く、哀しい夢……。

こんなに、汗びっしょんなって……しかし、ひとまずは良かったです。まあ、ちょっと座って休んどってください。しばらくは私一人で進めますので。

いやいやそういう訳には行かんよ。大丈夫です、喋るのは苦やないんでね。気遣いだけありがとう、おりしーはあれやな、おりしーはやさしーやわ。

うん、ですから上手くもないので座っててください。


響「まぁあなた達の事だから、変わり者同士、上手くやってるとは思うけどねえ」

コーヒーと一緒にビスケットみたいな感じで出すんですけど肉じゃがなんですよね。何を考えているのか?

しかも自分で食うしな。まあこれオカンが訪ねて来たようなもんなんで、私お茶も出せるし料理もできるよってアピールがしたかったんかも知れへんですけど……。

でもお箸自分の分しか出してないですからね。塚原はこれ手づかみで食うしかない。コーヒーにしたってソーサーも無しにコップ直置きで出してるんで、まだまだ家事はそこまで得意じゃないという事が伝わってきます。

まぁ橘くんがというか、橘くんとはるかちゃんがそれで楽しく暮らしてれば別に良いんですけどね。ひょっとしたら橘くんはラーメン以外は全部手づかみで食う人かも知れへんしな。

その二人が楽しく暮らしてるかどうかが分かるのが次のカットです。ドアを蹴飛ばすような大きい音を立てて橘が乱入。


「指名手配犯め! お前を逮捕する!!」

すかさずはるかが立ち上がって、「響、あなたは逃げて!」と振るんですが、塚原はコーヒーを一口すするだけで、「……これ毎日やってるの?」とつれない反応。

これ万が一乗っかってやるにしても、正解のリアクションがわからないですよね。ていうか何これ、ドッキリのつもりですか?

コマ送りで確かめると、塚原より先にはるかが音に反応してるんですよね。二人の運動神経とかから考えると、事前に仕組んだドッキリなのか、または普段からよっぽどこういう事やってるのか、どっちかかなと思いますね。

これで「変わり者同士」って片付けるんですから、響ちゃんも悪い意味で慣れすぎですな。


響「これで本当に刑事だっていうんだから、日本の治安は大丈夫なのかしらねえ」

本当に刑事でした。すごいですよね、ノー伏線です。

これホンマにビックリするよな。お前が刑事に取り締まわれる側やろ?

案外、だからこそ上手くハマったりするかも知れませんよ。ハッカーがFBIに雇われるみたいな。

そういうのもアリですか。でも、ハッカーはそういう技能がある訳ですけど、橘くんはただの変態やからなぁ。

変態の心理や行動を知り尽くしてる事から、変態犯罪専門の捜査官として活躍するんですよ。現場の些細な様子や容疑者の言動からどんな変態か分析して追い詰めていくんですよ。

嫌ですよそんな変態のクリミナルマインド! 違う、変態のメンタリストか?


ヘンタリスト

どっちか言うたらホワイトカラーとかのが近いかな。まぁどんな特殊刑事になるにせよ、そこに至る描写はゼロなのですが……それとも、我々が何か見落としたんでしょうかね。

何かいうてもなあ。強いて言えば第3話、学食で誘拐犯ごっこやったくらいですか? ギリギリそれっぽいのって。仮に、ああいうごっこ遊びをあれから色々やったと考え……

……色々な……ごっこ遊びを? 今の妻と……妻と、高校生の頃に……? 様々な犯罪者を……? 卑劣なあの手この手を……!?!

おっと。

それ良くない!? えっ今の良くない「この犯罪……あの時はるかとやった○○遊びと同じだ!」良いじゃないですかおりしーこれ良くない? めっちゃ良くなくなくなくない?

どっちにしても演繹型の探偵になるんですね。ブラウン神父の系譜の中でも指折りの低俗系探偵ですね。

せや! 謎を解くのはるかちゃんでも良くない? くたくたの橘くんが家に帰って、事件のあらましを教えると、「ねぇ純一、あの時の○○遊び覚えてるかな?」とか言い出すねん。うわやっば、これイケるな! 美味しいな!

そうですね、いいですね。落ち着きましょうね。

ほんでな、しかもな! はるかちゃん、全部は解かへんのよ。ヒントだけ出して。で、橘くんが「そうか、膝の裏か!」って解決して、後で君のおかげや言うと、「わお、何の事かしら?」ってキョトンとするんですよ。

全部分かって言うてたのか、単なる思い出イチャイチャなのか、読者には分からへん訳ですよ! うわっ、すごい。すごぉーい! 超メジャー感出てきた。やれますよ折口君これイケますよ、本屋大賞狙えますよ!

そうですね、いいと思いますね。同人誌でやりましょうね。

そんでなこのシリーズには一つだけお約束があって、最後は必ず二人で「今夜は君を逮捕するよ……♥」「純一……♥」ってなって締めんねん。

メジャー感消えた!

事件を解決してやると、旦那が早く帰ってくる訳ですなあ。


「響、純一には日本の平和は守れないかもしれないけど、私の事は一生守ってくれるって約束してくれたのよ?」

平和を守れよ!

これもすごいですよね。だったら刑事やめろって話ですからね。

いやまあ、そこですごい頑張って日本の平和を守られても、作品が違うわけですけど……言うたらクライアントの前やで、悩むふりくらいせえよ。

踏み込めば社会の正義か自分の身内かっていう難問にもなりうるところ、二人にとってはノロケの前振りでしかない。すがすがしさがありますね。

スケベ有理ノロケ無罪の世界ですからね。まあこれが納得行かへんのでしたら、ここは響ちゃん相手におどけてるだけで、実は二人の間色々あったし、覚悟だってあるんだという風に思っておきましょう。


「はるか……!」
「じゅんいち……!」
「星の数ほど愛しているよ」「私も愛してるわ、じゅんいち!」
(はいはい、ごちそうさま……)

やれやれ気味の塚原の言葉とともに、閉じられる橘とはるかの結婚式アルバム。アマガミSS森島はるか編、これで終幕です。お疲れさまでした。

橘くんの独白で始まって、響ちゃんの独白で締められました。いやはや、ごちそうさまってな、こちらこそごちそうさまでしたよ! こんなに食いでがあるとは思わんかったな。

ラスト1分で10年飛ぶのも大概でしたが、この21世紀にまさかのアルバムそっ閉じで終わりました。まあしかし、良いでしょう。橘も、はるかも、おめでとう。

これはもう、絵に描いた(!)ハッピリーエヴァーアフターですね。作中でも昔話を丸々一つやってた訳ですから、この終り方でよかったと思いますよ。


エンディング

この曲も聞き納めです。

どうしてだろう、たった4回しか聞いた事ないのに、もう何百回も聞いてるような感じがする。それだけ耳になじむ名曲という事だろうか。

クレジットでのはるかの表記が「森島・L・はるか」に変わっています。やはりミドルネームを教えてからは別人扱いって事なんですかね。

何気にこの先も全話出てくるはるかちゃんですけど、Lが付くのはここだけやからね。ワンオブゼムからのオンリーワンの、実に明快なシンボルですな。

アマガミSSの一つの特徴で、全話必ず全ヒロインが映るようになってるんですよね。たとえセリフがなくても、チラっとテラスの向こうでお昼を食べていたりする。

逆に全然姿が出てこなくても、次回予告で声だけ当ててたりする。どれだけ尺が足りなかろうが、これは絶対に削らなくて、作品としての戦略の根幹の一つになっています。


唯一の例外が次に扱う第5話で、七咲が全く出てこないんですよね。ただこの場合も、美也と中多が「逢ちゃん(部活で遊べなくて)残念だったね」と話題に出したりはする。

画面の外、物語の外にいる時、ヒロインたちは何をしているのかって話ですよね。そういう意味ではその例外こそが一番分かりやすくて、単に普段どおり生活している。

脈なしなら脈なしで普通に学校行って、部活に出て、友達と遊んでたりバイトに行ったり、図書館で勉強してたりする訳ですね。一人付き合っても残り五人はそうしてるところを毎回必ず見せてくる。

その一コマ一コマが彼女たちの厚みになる。一つにはもちろん、そういう厚みがある事で、いざ恋仲になった時のスペシャル感が際だつってのがある。安易なお色気イラストにも横に公式サイトの表情集置くと何倍も良くなるというのがある。

そんな事してるの?!

でもやっぱり重要なんは、橘くんとホレたハレたしてる時だけが彼女らの100%ではないという事ですよ。橘くんは物語の焦点を決めるけれども、その焦点の外にも世界はある。その先にあるのが、例えば梨穂子ちゃんのパートです。

そしてそれに続いてオーラスの絢辻編になる。とはいえ、この話はちょっと先走りすぎですね。

それもそうやな。まぁ要は、はるかちゃんこの先も毎回出てくんねんけど、その時はそういう事を考えながら見るのも楽しいよという事です。

レビューを進める必要上、我々はどうしても焦点の合ってる方に沿わざるを得ない。この先、そんな我々の言葉の及ばないところでも、Lのつかない無数の森島はるかが方々で暴れ回っているという事で。


次回予告

それにしても、高所恐怖症で刑事って務まるんかね?

コロンボとか三毛猫ホームズの片山義太郎とか、トミーとマツの岡野富夫とか、意外と刑事モノでは馴染みの設定だったりしますね。

へえーそうなんや。しかし、橘くんが本当の刑事だとすると、さっきのドッキリで出した警察手帳はあれ、ホンマモンやったって事ですよね。そんな事、大丈夫ですかね。

それを横見もしないのが塚原はやっぱり大物ですね。あの子は何医者になったんですかね?

精神科じゃない? 二人を治療中なのよ。

療法エンドですか。切ないですね。

切ないといえば、あれ橘くんの家ですよね。美也ちゃんはどこ行ったの? なんで四人席のテーブル一人空いて終わるんやろね?

……!?

棚町薫編 第一章「アクユウ」