sandbox3


ん! ……お?
なーにしてんの?
薫!
なんでこんなところにいるの? もしかして……誰かにすっぽかされちゃった?!
ち、ちがうよ。
……。
……。
ね、送ってよ!
ええっ?
クリスマスケーキを取りにいくところなんだ。ウチはね、毎年お母さんと二人でクリスマスパーティーやることになっててさあ。
へえ~。
お、そうだ! 良かったらウチに来ない~? ケーキ二人じゃ食べきれないから、残ったら食べさせてあげてもいいわよ。
ええ~。
いいから、ケーキ屋さんまでは送ってよ! 来るか来ないかはその間に決めればいいでしょ?
あっ、ああ……。
ほら! レッツゴー!

ギィッ、うおあああーっ!
アハハハハ、いいよいいよそのリアクショーン!
なっ、なんだ薫かあ。いきなり人の耳噛むなよ!
ふふん…気持ち良かった?
フン! 大したことないよ。 ほら噛めるもんならこっちも噛んでみろよ。
……えーい!
ふおあああ!
んぬんぬんぬんぬん……
ホントに噛むなよ!
噛んでみろって言ったじゃない。
確かに言ったけど、フツー噛まないだろ。
いいじゃない、アンタとあたしの仲なんだからぁ。
つまり、他人てことだよな?
うおー、そこまでゆう?
うん。
そう……じゃあ、これでサヨナラね。
うん。
思い返せば、はやー!! はやぁ…?
中学の頃からだから、三年だな。
んそそそ。三年! 衝撃的などぅえあいを果たした二人は……
果たしてないよな。

(よぉ大将、また夫婦漫才か?)
そんなのじゃないよ!
もぉ、冷たいんだからぁ。
(棚町も大変だなー)
大変なのは僕の方だ!
いいのよ、梅原くん、あたしが好きでやってる事だから……
かあーっ、健気だぁ、泣けるぜ!
ええ、健気小町と呼んでもよろしくてよ! ……あ、そうだ梅原くんなら知ってるかな。
(お?)
バイト先とかで話題になってるんだけど、最近できた「ポートタワー」って、もう行った?
(くはーっ、棚町、切ない質問するじゃねえか。あんなデートスポット一人で行けねえよ!)
そうなの? なんか水族館とか展望台とかあって楽しいらしいじゃない? ねえ、みんなで一緒に行かない?
(みんなって、俺ら三人って事か?)
うん!
(まあ、デートで行きてえところだが、背に腹は変えられねえな。おう、下見という事で行くのもアリか。うんうん)
決まり! じゃあいつにする?
行かない。
え?
あんなところ、つまんないよ。
(どうした大将?)
どうせカップルばっかだし、僕だちが行ったって浮きまくるだけだよ。
そんなの行ってみないとわかんないでしょ? 他の家族連れだって多分いるわよ。ねぇ、あなた~。
って、僕たち家族じゃないだろお!

ったく……。おカタいんだから。ねえ?
ん、まあそう言うなよ。絢辻さんにもクラス委員て立場があるんだからさ。
ん! あーん(た)どっちの味方なのよ!
う、うわあっ!
! わっごめん、大丈夫?
ううっ……ぱ、ぱ、ぱんち
パンチ? おぉよく避けたよねあたしの右フックを。
……うぅ、ぱんちら
あ? はぁぅ……って、バカー!
っ! ……ががっ。

純一! 気付いた?
……あれ? 僕、どうして保健室に?
憶えてないの?
さっぱり、記憶が……。
(……へっ)こ、ころんだのよ! それで、頭とお腹を打って。
そう、それで、薫がここまで運んでくれたのか?
そうそう! 感謝しなさーい。ふふーん。
嘘をつけえ! お前が殴ったんだろ!
なんだ、バレバレ……か。
全く、ちょっとは手加減しろ!
寸止めしたわよ! でも、アンタが当たっちゃうから!
それは寸止めとは言わないだろ……テテテッ
な、大丈夫?
……ああ。
……ごめん。
ええ?
うん……ほんと、ごめんなさい。
もしかして、ずっとついててくれたのか?
……まあ、そんなとこ。怒ってるでしょ?
ふっ、そんな顔されたら怒れないだろ? もういいよ。
でも。
いいって。殴られはしたけど、その……薫の、見せてもらったし。
えっ? んんん……!
あ! でもま、そういう事だから、イーブンてことで!
……うん。
心配してくれてたんだろ?
うん。それはね。
お前に心配してもらえる事なんて、ほとんどなかったからな。
そうでもないと思うけど……。
どっちにしろ、珍しいのは確かだろ?
まあ、そうかもね。……思い出してたんだよね。
何を?
中学の頃も、こうして二人して保健室でサボった事あったでしょ? 憶えてる?
いや、あの時も今も、僕はサボリじゃなかったけどね。
ふ、細かいことはいいじゃない。
薫は変わらないよなあ。中学の頃から、めちゃくちゃな事ばっかして。輝日東の核弾頭! なんて渾名までついちゃって。
その名で呼ばないでよ。
あ、すみません。
さて、もう行くね。
あ。
閉めとく?
うん。
じゃ、お大事にぃ!
って、お前が言うなよ!
あはは。

うおう!
肝心な事、言い忘れてた。
ああ? ……何?
放課後、校舎裏の花壇のところに来て。
え?
必ず、来るのよ。

……何だったんだ? 今の……
……何でわざわざ放課後に、人気の無い校舎裏に呼び出すんだ?
……んはあ、薫が僕に告白?! いやいや、無いだろ、無い……って事は……

輝日東の核弾頭で悪かったねえええ!
ぐわああああ

いや、それなら、校舎裏じゃなくてもいいだろ。……ってことは!

純一!
か、薫!
来てくれたのね! 好きーー! んふふ、あは…
バサッ
じゅんいち……

まさかぁ! あいつとは、中学の時からの悪友なんだぞ! それを、今さら…… いやいやいや、でも、さっきだって、あんなに心配してたし。もしかして?

なんだこれ。
お帰りなさい、あなた。
んぐごごおっ
御飯にします? お風呂にします? それとも……

何で田中さんがいるんだ?
ねえ、聞いてる? だから、今から恵子の話をしっかり聞いて、あんたの意見を言ってみて。
ん~?
だから、あんたは校内の男子代表に選ばれたって言ってるの!
んん~て言われても……
(ごめんね、橘くん……
謝る事なんてないない! このボンクラに。
(ボンクラって……
校内男子代表って言ったり、ボンクラって言ったり、どっちかにしてくれない?
(ふふっ、ほんとだよね。橘くんも大変だね。
田中さんもね。
(もう慣れちゃった。えへへ。
ははは。
何二人で意気投合してるのよ! 恵子、早く本題を言いなさい!
(えっと、私ね、クラスの、ある男の子に告白したの。
いぃっ! あっあ、そういう話なんだ。
いいからとりあえず聞きなさいよ。
うん…。
(それで、私、その人に返事は少し待ってくれって言われたから、しばらく待ってたんだけど……
しばらくって?
一ヶ月くらいよね。
ええっ? 一ヶ月も?
(うん……
なんていうか、恵子ってほんっとレアものだよね。普通そんなに待たないって。
(んはは……。
んでもって、やっと呼び出してきたと思ったら、アレだったんでしょ?
アレ?
そう! そいつ恵子に何て言ったと思う?
う~ん……、そんなの見当もつかないよ。
キス、させろだってさ。バカにするのもいい加減にしろっての!
うぅ、キス!
ろくに返事もしないで放っておいて、何がキスよ!
そ! それで、田中さんはどうしたの? キス……したの?
(ううん、まさか……さすがにその時は断わったけど、もう一度言われたら……。
で、どうしよっか、ってとこなの。
なるほどねえ。
(ごめんね、変な相談で……。
ううん、それはかまわないけど……。
そういう訳で全校の男子代表、手っ取り早く意見を述べなさい。
意見て言われてもなあ。
ま、あたしの予想は恵子が泣かされるハメになるって感じなんだけど。
(ええー!
おいおい、何もそうズバっと……
あたしの予想はどうでもいいの! いいからあんたの意見を言いなさいよ!
ええっ、ううーん、そうだな……。手紙を出してみるとか!
(手紙……?
なーんか地味ねえ。もっとさっくり解決する方法ないの?
さっくり解決するようなら僕に聞かなくても解決するだろ?
うん、確かにそうね。
(あはは。
でも、手紙ったって何て書くのよ。
う~~ん、ちゃんと返事してくれるのを待ってます、とか、そういう感じは? 一度告白してるのなら、しつこくするより、間接的に言ったほうがいいと思うんだ。直接会って、またキスさせろって言われても困るだろうしね。
一理あるわね。恵子、どう?
(うん、さっそくやってみる! 橘くん、ありがとう!
へへ、どういたしまして。

なあ、薫。
ん?
さっきの、田中さんの相手って誰なんだ?
さあねえ。あたしがとやかく言う事じゃないわ。
それもそうだな。田中さん、うまく行くといいな。
そうなるようにあたしも動くつもりよ。……お?
余計な事はするなよ。
大丈夫だって! これ以上にないくらい、バッチリうまくまとめるから!
いーや! お前のそのバッチリっていうのは、いつも破壊的な方向に行ってるだろ?
そうかなあ。
そうかなあ、じゃないだろ!
あ! やば、あたし今日バイトだった!
バイトってまだ、あの駅前のファミレスか?
そそそ。今さ、お店で冬の味覚フェアってのをやってるのよ。
冬の味覚フェア?
そうそう、それでカニのカラにグラタンを入れたりしててさぁ。
へえ、それは美味しそうだなあ。
揺れるし、すべるし、運ぶのが大変なのよ! 北から来たカニグラタンとか、えのきだけだっけ和風パスタとか、くっだらないダジャレの名前つけてさー?
微妙なダジャレだな。
かしこまりましたぁ! 北から来たカニグラタンでございますねー? って、注文の繰り返しが恥ずかしいっての。
ああ、そりゃたしかにおかしいわ。
あ~あ、別のバイトさがそっかな。
ファミレス以外でやってみたいバイトってあるのか?
うん、いっぱいあるわよ。遊園地のアトラクションのお姉さんとか!
ああ、それは何だか楽しそうだな!
でしょ?でも倍率が厳しそうでさぁ。
大丈夫、お前なら受かるよ。
そう? てんきゅ。

な、バイトって何が面白いの?
ん? お金が入るところ。
え?
アハハハ、じょーだん。…でも、半分本気。だってほら、ウチ、母ひとり、娘ひとりじゃない? だから、お母さんと二人と頑張ってやっていこうって約束してるわけ。
ああ、そうだったね。

あ、でもね。目的はお金かもしれないけど、けっこう働くのって面白いのよね。
へええ、そうなんだ。
うん! お客さんにありがとーって言われたりすると、これが嬉しいもんなのよ。
なるほどね。
アンタも一度やってみるといいかもね。制服にエプロン姿、似合うかも!
はああ、なんで僕がエプロン?
とにかく、まずはお客さんで来なさい。
気が向いたらな。
うふふ。サービス……し・て・あ・げ・ない!
しないのかよ!
ぷっ、ははは、ははは
……はははは。
じゃあ、あたしこっちだから。
あのさ、薫。
今日、花壇に呼び出された時、僕、薫に告白されるのかと思っちゃったよ。
え。
なわけないのにな。はは、勘違いにもほどがあるよな。はは……なんか薫にパンチくらっておかしくなってたのかな。だったら、薫にも責任あるんだからな。……ん、薫?
……はっ…… なわけないじゃん! バッカじゃないの? ……もう、さっさとバイトいかなきゃ! チコクチコク!
……だから、勘違いだって言ってるのに。叩かなくても……。

いやいや、そんなわけない!! ……っしゃあ、今日も働くわよ!!

よう、さっそく来てやったぞ!
……いらっしゃいませ。
んお。
サービスしないって言ったでしょ。ご注文は?
おまかせ、安いので!
えーっと、一番安い……コーヒーでいいわね。おかわり自由だし。
うん。それ以上だと難しい……。
弱気ねぇ。ステーキとかばーんと頼みなさいよ! 冬の味覚フェアの北から来たカニグラタンとかいかがですかー?
はは、あの運びにくいやつか?……あ、(おお……なるほど……)
? ……ちょっと! どこ見てんのよお!?
い、いやあっ……別に。
やらしいわね。
いや、決してやらしい視線で見ているわけではなくて……
ご注文は以上でよろしいですか。
あぁ……はい、よろしくおねがいします。
フン!

何? ……何、これ……
まさか、あたし……あたし、あいつに……?
今朝、あいつを殴ったのも……
(絢辻さんにもクラス委員て立場があるんだからさ)
……って、あいつが絢辻さんを庇うような事言うから! それに……
(僕、薫に告白されるのかと思っちゃったよ)
ああんな事いうから、なんか、ドキドキが止まんなくて……
うそおお~~~~~?!?!

薫、どうしたのかな、もう一回からかってから帰ろうと思ってたのにな……。


……あたし、ほんとにどうしちゃったんだろ。突然こんな気持ちになるなんてさ。
(僕、薫に告白されるのかと思っちゃったよ)
……っっ! あいつとは中学からの悪友でしょ? それ以上でもそれ以下でもなかったのに……。
変わったのはあいつじゃない、あたしの方だ。でも、何で? 何でなの? 確かにあたしには足りなかったけどさ。
色で言うなら、淡い、ピンク色が……でも急すぎるよ、わかんない、自分でも……。
あ~あ、カッコ悪い。同じとこばっかクルクル回ってさ。
……!! っもう、何やってんのよあたし! へっ、まさか、あたし……恋してる?!?!
……いや、ないでしょ、ないない……

ちょっ、ちょっと待ってよ!
うっさいわね、事情も知らずに口出すんじゃないわよ!
事情は知らないけど見過せないよ! 一体、どうしたっていうんだ?

……薫。……なあ、一体なにがあったんだよ。
……。
話してくれないか?
……あいつら、恵子の手紙を周し読みして、笑ってたのよ。
じゃ、田中さんの相手って。
あたしの予感が見事に当たっちゃったって訳よ。最初のキス事件の時からあんな奴って思ってたんだけど……でも、恵子が好きだって言うから、応援しようと思ったのに……。
恵子、あんたに言われてゆうべ一生懸命書いたのよ、手紙……。何度も何度も、これでどうかなって、あたしに電話してきて、めちゃくちゃな事言われても、やっぱり好きだから、って、心をこめて……
そうだったんだ……。
最初は我慢しようと思ったんだけど、あいつらの笑い声を聞いてたら……。
ごめん、薫。
ん、何であんたが謝んのよ。
それ知ってたら、止めなかったよ。
……いいって。どっちにしろあれ以上言うつもりもなかったし。それに、あんだけやっておけば、ちゃんと考えるでしょ。
考える? 何を?
恵子の事。
どうだろうなあ……。
恵子の相談って、告白したのに彼が返事をしてくれないって事だったし、これでバッチリ解決! でしょ? 恵子もあいつがどんなやつかわかったし、あたしもスッキリしたし。
お前がスッキリしてどうすんだよ。
そうか、それもそうね。
ったく。

あたし、寒いのは嫌いなんだけど、この季節の空は好きなんだよね。
へえ~。
うまく言えないけど、澄み切ってて、やけに高く見えるなぁって。
うん。
終わり。
ええ?
空の感想。終わり。
終わりなんだ。
うん。

なあ、薫。ラブレターの件でわかったんだけど、田中さんて大人しそうに見えるんだけど結構積極的なんだな。
うん! 最初あたしも驚いた。
はっは、やっぱりそうなんだ。
ま、今回はあんな事になっちゃったけどね。
うん。
でも、次はあたしがどうにかしてみせるわ。
そっと見守ってあげようよ。
……そうだね。

……薫。
うん?
ちょっと聞きたいんだけど、お前は、好きなやつとかいるのか?
ん、な、なんでそんな事聞くのよ!
いや、なんとなく。
なんとなく、か……。
なあ、どうなんだ? 教えてくれたっていいだろ。
いや!
なんだよそれ、ケチ。
じゃあさあ、あんたはいるの? ……好きな子。
え? いないよ。
ふ~ん、そう。

あんたとあたしの関係って、なんだろうね?
はあ? 突然どうしたんだよ。
ここんとこ考えてたんだよね。あたしたちってどんな関係なんだろ、って。高校に入ってからも、中学の時とほとんど変わってないじゃない? 付かず離れずでフワフワしてる……すごく中途半端な感じ。淡いパステル色みたいな。
淡い……パステル? ……ぱ、パステルピンク!! ……うっ!
あんた……まだ懲りてないのね……。
あああ、いやいやいやぁ、で……何がパステルだって?
あんたとあたしの関係を例えたんじゃない。あんたは何だと思う?
それなら、悪友ってとこじゃないか?
まーそんな程度よね。……わかってた。
それで?
ん……だからさ、そろそろ少しくらい変化があってもいいかなって思って。
変化ねえ。
知り合ったのは中学だったけど、それから私たちも、それなり成長したわけだし。
まあ、確かにそうだけど……。でも、その変化ってのは今の僕たちには必要ないだろ?
はっ? そんな事ない! 絶対ぜったい、必要なんだから!
どうして急にムキになるんだ?
へっ? む、ムキになんてなってない!
……はあ、わかったよ。お前が何を考えてるのかわかんないけど、とりあえず、その変化とやらに付き合ってやるよ。で、どうすればいいんだ?
おお、……それは全然考えてなかった。
そんな事だろうと思ったよ。
じゃあ聞くけど、あんたにはこうしたいとかないの?
う~~ん、これといって……。
じゃあ、ちょっと時間ちょうだい。考えるから!
なんだよ、考えるって……。まあいいけど。

よっし! 決まりっ!
ううお! ちょっと待て、何も決まってないだろ! ぐっ、ふう、お前、何するつもりだ……
い・い・こ・と。
い、い、こ、と……じゃないよ!
うっさいわね! 暴れんじゃないの!
薫!
抵抗したってムダよ!
いゃっ、だから……おい、嘘だろ?! ……いゃぃ、ちょっと! 薫っ、うおっ!

……ンっ!

っ……! ひっ……
ほおお……
はああっ……バカバカ! あんたが暴れるから、ほんとにしちゃったじゃなぁい!
ええっ!
冗談の……つもりだったのに……
えええーー! い、いやあ、でもぉ、それは、だな……。
……初めてだったのよ!
うおあっ、ご、ごめん……。
ん!
いっ…
んん……今のはナシって事で!
あ、はあ?
ノーカウント!! いい?! じゃあね!!
ま、待てよ! 僕だって初めてだったんだ! 僕の唇奪って逃げるつもりなのか?
イイーッ!
ノーカウント……?

薫。
な、なに?
さっきの仕返しだ。図書室に来い。
え?
いーから来いよ。
何よ……

さっきのお返し、きっちりさせてもらうぞ。男らしくな。
へえ~。「男らしく」ねえ。
げへ!
うっ、何その手つき!
前に薫の脇腹くすぐったら、笑い死にしそうになったろ! だからまた同じ目に……
……後悔するわよ。
覚悟の上だ…! ここは、力ずくでも!

……んんんん、ダメだダメだ! こんなんじゃ全然納得できないし、仕返しにならない!
なーにブツブツ言ってんのよ。
んんん~……ん?
お?
これだ……これだ!! よし、ヘソにキスをする!
はあ? 本気?
本気だ!
……そう。でももしあたしが嫌って言ったらどうするの?
……嫌って言うのか?
どうしよっかな~
そ、それは、無しで……
男らしくなーい。
わ、わかった……だったら、薫が嫌って言っても無理矢理する!
じゃあ、いいよって言ったら?
ええ?
ねえ、どうするの?
そしたら、全力でする。
んぷ、ふははは!

な、なんだよ!
さすがね! あんたやっぱ面白いわあ! ……さっきの仕返しをするんだっけ? わかった。見せてもらうわよ、あんたの男らしさを。
そ、それじ
ひざまずいて。
えっ……
いいから。
お、おう……

ちょっと。……何じっと見てんのよ。ここにキスするんでしょ。
あ、ああ……。そうなんだけど……。
あのさ、こっちも相当恥ずかしんだからそこんとこ良く考えてよね。
あっ……わかってるよ。
なら、はやくしなさい。

っ……くすぐったい……
お、女の子の肌って、こんなスベスベなのか……唇が触れるだけで、こんなに気持ちがいいなんて……
口つけたままでしゃべらないでよ!
ん、ん……。
もう、いい?
(そう言われてもな……なんだかいい香りがするし、あぁ、離すのがもったいないよな……よし、ちょっと、ちょっとだけなら……
ひぇ、ちょっと、今舐めたでしょ! んぐぐっ……ダメぇ!
うわわっ! んごぐわ、何すんだよ!
もう無理!
上から服を被せたりして、逃げれなくしてるのはお前だろ!
(おお、おおおお……にぃに……!

はあ、はあ、ふ、ははははは…… 想像以上のネタに走ったわね!
どうだぁ!
ええ、よく分かったわ。あんたが悪い男だってね。
わ、悪くなんてないよ!
男らしいところを見せるなんて言って、あんな事したくせに?
それは……そう! 隙があったから!
言うじゃない。
誰かの悪い影響が出てるんだよ。
ふふふ、はははは。
へへへへ。
まあいいわ、相当恥ずかしかったけど、それなりに面白くもあったし。男らしいかどうか別としてだけど。
別なんだ。
とーぜんでしょ?
お、お……
ねえ、バイトまでまだ時間あるから、どこか行かない?
ええっ、ああ、別にいいよ。どこ行く?
そうねえ。じゃあ公園でも散歩してく?
うん、そうしよっか。

ねえ、あんたなら届くでしょ?
無茶言うなよ。さすがにあそこまでは。
んーじゃ、あんたが下ね。
はん?
ほら、土台。さっさとしゃがむ!

んいい……やっぱりこうなるのか。
仕方ないでしょ、他に方法がないんだし。
お兄ちゃん、大丈夫?
……はい。
さて、よいしょ。
こ、これは……! 太ももの感触が何とも……
いいわよ、立って。
っ、っっ、っええ、ん、とっとっと……ってえ!
いいじゃない! バッチリよ!
でも、肩車なんかで届くのか?
届かないわよ。
ええっ、じゃあどうし、おおおお!
上見たら殺すわよ!
はああ? うわああ!

おい薫、危ないぞ! はやく降りろよ。
……。
何してんだよ。また肩貸すか?
違うの、あんたが見てるから降りられないんだけど。
えぇ?
見えちゃうでしょ?!
あ、そういう事か、ちぇ、ケチ……。
んな、ちぇって何? ケチって何よ?

バッチリ解決!
(イエーイ!
お前ってほんとに無茶するよなー。昔から困ってる人をほっとけないっていうか。
いけない! バイトに遅れちゃう!
ん?
ごめん、あたしから誘っといて、結局、公園の散歩とかできなかったね。
いやあ、別にいいよ。また今度で。
ほんと!? じゃあ、また今度、ゆっくり!
あっ……
バーイ!
なんか、いつもと違う……薫って、あんなに可愛かったっけ? ……あっ、なんで僕、ドキドキしてるんだ?

お? お母さん! お母さ、
(ふふ……
お母さん……その人、誰……? 誰なのよ……?


あれっ、薫、どうしたのかな……

(もしかして、あのキスが原因で欠席……?
(もしかして、あれで風邪引いたのかな……、だとしたら、僕のせいか?
(でも、昨日はあんなに元気だったのに。どうしたんだろ?

(恵子)うぇっ、薫?
うん、昨日は電話とかしなかった?
あー、実は昨日のお礼に夜電話したんだけど、話せなかったんだよね。
え?
なんか留守みたいで、誰も電話に出なくて。……でも、そういう時って、いつもバイトだったりするから。
お、おう……
薫の事心配なの?
えっ、いや、心配なんてしてないよ、違う! そんなんじゃないから!
橘くーん?
ん、これまでこんな事なかったから、あいつ体力には自信あるっていつも自慢してたし?
ほんとにぃ?
ええいてえ! ほんとに心配なんてしてない……うおお!

もしかして、授業サボってるってだけで、学校には来てるのかもしれないな。

(あたしの予想はどうでもいいの! いいからあんたの意見を言いなさいよ!

(あたし、寒いのは嫌いなんだけど、この季節の空は好きなんだよね。

(わかった。見せてもらうわよ、あんたの男らしさを。

どこにいるんだ、薫……?
(恵子)高橋先生に聞いたんだけど、薫、どうやら今日無断欠席らしいの。
え?
しかも、先生が自宅に電話したら、昨日の夜家に帰ってないらしくて、……それで、心配した先生が私に何か知らないか、って……
……っ!
あっ、橘くんどこ行くの?
薫探しに!
授業は? 出ないの?
適当に言っといて!

(薫、ハマってるお菓子ってある?
(あるある! あるわよ~
(何?
(まずは冬季限定のホワイトパウダーをまぶしたチョコでしょ? それと新発売のココア味のアイスね!
(意外と新しいもの好きなんだなあ。
(ふふっ、まあね。特に限定ものは今しか食べられないと思うとついつい買っちゃうのよね。
(はは、食べすぎには注意しろよ。
(わかってるって!

(薫はもう、今年の冬服はそろえたの?
(うん、もちろんよ!
(へえ、お前にしては準備がいいな。
(当然じゃない! 人気のお店の新作コートなんて、九月には完売御礼よ?
(そ、そうなのか……
(うん。秋頃にはプレミアムついてたりするんだから。めぼしいものは早めに手に入れる……これがオシャレの鉄則ね!

(ねえ。
(おう?
(いちお、ルール確認。いつものナインボールでいいのよね?
(えっ、ああ、うん!
(オッケー。そんじゃ、始めるわよ。……よーし! 出だし好調!
(やるじゃないか……
(ふふふ、まーねー。

(薫、どこにいるんだよ!
(……あれ、何で僕、薫のこと、こんなに心配してるんだろ……
(どうして、こんなに薫のことが心配なんだろ……
(薫……

純一?
薫! どうしたんだよ、心配したんだぞ!
何であんたが心配すんのよ。
何でって言われても。
悪いんだけど、あと15分くらい待って。そしたら休憩時間になるから。
え、あ、ああ。
風邪引くわよ!

はい。
ああ、サンキュ。
熱いから気をつけなさい。
あったかい……。って、まったりしに来たんじゃないんだ!
薫、昨日からどこ行ってたんだ? しかも学校サボってバイトには来てるってどういう事だよ!
だって、お店に迷惑かけるわけにはいかないから。
お前が無断欠席したから先生が心配して家に電話したんだ。そしたらお母さんが昨日飛び出したっきり家に帰ってないって……。お前、いったいどこで何してたんだ?
マンガ喫茶にいた。
……なぁ、いったい何があったんだよ。
……やってらんないわよ、まったく。
ええ?
頑張ってたつもりだったのに。二人で力を合わせればやっていけるって思ってた。
どういう事だよ。
昨日、あれからバイトに行く途中で、お母さんを見かけたのよ。
うん。
知らない男と一緒だった。
ええ?
家では見せた事ない顔しちゃってさ。……頭くるじゃない? あたしはあたしで働いて、お母さんの負担にならないように必死なのに。結局、それが元で大ゲンカよ。
そうだったのか ……。
再婚を考えてる、なんて言うの。……ほんとやめてよね。
……あたし、一度だって掃除も洗濯も手を抜いた事ないのよ。たまにはご飯だって用意してる……そうやって、二人でもやっていけるって証明してきたの! これからだってそうよ!
絶対に、いい加減にやらない……なのに、どうして……
薫。
あたし、あたしは新しい父親なんていらない!!
薫……。
……ごめん、純一。
……え?
こんな話、あんたにしかできなくて。
うん。
冷静に話してるつもりだったのになー。
いいって。
つい、あふれちゃった……。
……薫、泣けばいいと思うよ。……おっ? ぅおおおっ! くはぁっ、うっ……てて、いきなり何だよ!
ごめん、……あんたにも見られたくない顔はあるから。……じゃあ、あたし行くね。
ああ、薫! ……悩むのはいいけど、自分の追い詰めちゃダメだよ。泣きたかったら泣けばいいじゃないか。
……そんなのダメ、あたしが強くならなくちゃいけない。
泣く事は弱さじゃないよ。
……!
自分よりお母さんの事やお父さんとの思い出を大事にしてるから辛いんだろ。
どうしてあたしの気持ち、そんなにわかるの?
それは、付き合い長いからかな。
ねえ。
うん?
……ありがと。
うん。
頭ではわかってるの。お母さんだって、お父さんの事忘れたわけじゃないって。ただ……。
うん?
いきなりだったから、どうしていいかわからなくて……。
薫。
うん?
僕も、その……薫の力になりたいんだ。
もし必要ないなら、いらないって言ってくれればいいよ。そしたら僕は……
ダメ。
え?
あんたがそばにいてくれないとやだよ。
薫……。
そばにいてよ。
……うん。
お母さんに電話してくるね。
ああ、そうしなよ。

……お母さん、なんて?
最初はすっごい怒ってたけど、でも、最後は笑ってた。
よかったな。
うん。心配かけちゃった。
たまにならいいんじゃない?
そういうもんかな。
うん。そういうもんだよ。

じゃあね。また明日。
うん。またな、薫。
今日はほんとありがと。
ううん……薫!

ほいっ! ……お前の好きそうなやつ、冬季限定スーパーホワイトパウダーチョコだ!
……!
僕はいつもすぐそばで薫を応援してるよ!

(決まった……今の僕、けっこうカッコいい?)
(がんばれ……薫!)

(ほんとどうしたんだ? 突然こんな気持ちになるなんて……)

(あんたがそばにいてくれないとやだよ。

(待て待て待て、あいつとは中学ん時からの悪友だろ? それ以上でもそれ以下でもなかったのに……。なんで急に……まさか、本当に薫に惚れっ……

薫!
ぐんもー!
それ、何だか重そうだな。手伝おうか?
ほんと? てんきゅー! 助かるわあ。
はは、お安い御用だよ。でも、薫がプリントを持ってる姿は意外だなあ。
実は、今そこで先生に捕まっちゃってさあ。一時限目の授業で使うプリントを持っていってくれって言われちゃって。
で、素直にOKしたのか?
うん! そういう事。
へえ~、今日はずいぶんとご機嫌なんだな。普段の薫なら逃げ出すだろ?
まーねー。昨日サボったから罪滅ぼし。
そっか。
それよりほら、早く教室に行かないと。話をするなら歩きながらでもいいでしょ?
ああ、そうだなあ。……よかった、薫が元気で。
あったり前でしょー? いつまでウジウジ悩んでても仕方ないしさあ。
……無理してないか?
ふふふっ、いいのよ、もう!
そっか。じゃあ、これも一人で持てるって事か?
何よ、持ってくれるって言ったのに!
ふふ、冗談冗談! ……完全復活、か。
ほら、何立ち止まってんの!
へいへい。
ん……
お?
てんきゅね。ふっ……じゃあ、おっさき!
ああっ……

やられた……


(梅原)ていうか、お前こそ棚町とはどうなってんだよ。
ええっ。
ほらこの前、棚町が無断欠席した時、お前必死に探し回ってたって話、俺は田中さんからしっかり聞いたぜい。……で、どうなんだ?
いやあ、どう、って……あっ、その……

どうって言われても……
(田中)ねえ、思い切って薫から誘ってみたら?
ええ?
せっかくのビッグイベントなんだしさ。
うーん……クリスマス、か……。
もうすぐだね。

失礼しまーす。
はいはーい、保健室へようこそぉ! ……げっ、恵子かと思ったのに、どうしてあんたが!
薫! そんな格好で何してるんだよ。
バイト、かな……なんちゃって。
じゃあ仕事をお願いしようかなあ。
仕事?
うん、梅原が紙で指切っちゃって、絆創膏が欲しいんだ。
オッケー、バンソーコーね。絆創膏は……
(うっ…
あ、あった。はい、一つでいい?
うん。サンキュー、ところでどうして学校でそんな格好してるんだ?
それがね、さっきスカートの裾がほつれてるって恵子に言われてさ。直してもらってるとこなのよねえ。
それにしたって……。
今日は体育もないからジャージもないし、そしたらちょうど洗濯したばっかのこの制服が、都合よくカバンに入ってたの。
なるほど。
ふふーん。
な、なんだよ……梅原が待ってるから行くよ。

……あのさ。
何?
ううう、うんと……
らしくないわよ。ハッキリ言いなさいよ。
ああ、じゃあ……えっと……薫はイブに予定とかあったりする?
あるわよ。
ええっ、ああ、そうなんだ……。
今さら何いってんの、あんたとデートするに決まってるでしょ。
ええっ!
いつになっても誘ってこないから、勝手に予定入れておいたわよ。……問題ある?
無い……です。

うおおっ!
ん、何そんなに驚いてんの? ああ、変な事でも考えてたでしょ。
違うよ!
恵子に会ったら、早く制服持ってきてって伝えて。
んん、わかった。

んー
思い切って新しいの買いたいとこだけど……
イブで、しかも初デートか!
服も大事だけど……勝負パンツ、とか?
うわあああーー!
もう、あたし何考えてるのよ!
決めてるじゃない、純一と一緒に、あそこに行ってみたい、って……

遅いな薫……
どうせあいつのことだ、10分や20分は遅れるとは思ってたけど、甘かった、まさか30分以上待たされるなんて……
もしかして、来ないなんてこと!
また、2年前みたいにすっぽかされちゃったのか?
……いや、薫に限ってそんな事はないか。あいつは、遅れても、絶対に来る。……はず。
でも……

はあっ、はあっ、はあっ……
ん……
ごめーん、お待たせ……。はあっ、はあっ……はあ……
おっ……遅い、遅すぎる! 一体何してたんだよ!
ごめーん、ちょっと気合入れすぎちゃった。えへ。
なっ……時間に間に合うように気合を入れろよ。
だから謝ったじゃない。
謝ればいいってもんじゃないだろ。
もー、怒らないで、機嫌直してよ。
怒ってないよ。心配してたんだ。……来ないかと思って。
あ、それは絶対にない。
ええ?
あたしがあんたの嫌がる事をするわけないでしょ。
なっ……。
もう、大事な初デートなんだからん、楽しく行こう!
薫……。
ほら、笑って笑って!
お、おう……こうかぁ?
あ、なんかちょっとそれは嫌。
だったらやらせるなよ。
あはははは!
むう。
ふふふ。いいねえ、あんたらしくなってきたじゃない?
フフ、余計なお世話だよ。
さ、それじゃ行こう。
うん、そうだな……って、どこへ?
いひひ、あんたと行きたいところがあるの!

とうちゃーく
ここって、前に話してたポートタワーだよな。
うん! やっぱり間近で見るとかなり大きいわねえ! それじゃ早速タワーに登ってみる?
ええっ、登るってこれに?
もちろん!
ああっ、いやっ、公園もあるし、少し散歩でもしようよ。
うん、いいわよ。まだ時間もあるしね。

ねえ、こんな風に海辺を歩いてると、なんか懐しい感じしない?
ん?
中学の頃も、よく遊んだ帰りに、こんな風に歩いてたじゃない。色んな事があったよね。
そうだなあ。
梅原くんに追い掛けられて、焦ったあんたが飛び込んだ先が女子トイレだったりとか、授業中にうたた寝してて、思いっきり机に顔をぶつけて鼻血を出した事とかぁ!
なあ、薫、こういう時はもう少しまともな思い出を言うべきだろ。
そうそう! あたしにイタズラしようとして、逆に大事なところを蹴られたこともあったっけ。
それを言うなら、薫だってしょっちゅう暴れるから、スカートまくれたりして、丸見えだったんだから。
覗いてたんでしょ!
ううっ、僕の自転車の後ろに乗って、送れって言ったり。
そういえば、一度盛大に転んだね。
薫か暴れるからだろ?
そうだっけ?
そうだよ。
ふっふふ。

さてと、行きますか。
えっ?
もうすぐ夜景が綺麗な時間よ。
ええっ、まさか……。
ここまで来たんだし、当然登るわよ。
うっ、うぐっ!
ほら!
えええっ!

ええええええーーーーーーーっ!

ほら! 乗るわよ。
わあっ、うううっ、うう! うう! ひいい、うわあああーー!!

高所恐怖症だったんだ。
うぃいっ、そっそんなことないよ!
ふーん。 ……じゃあ、こっち来てみなさいよ!

ほら、ここ。ここ!
げ……
あははは、やっぱりそうなんじゃない!
に、苦手なんだよ、スースーするから……
うふふふ、なーんかかわいい!
か、可愛いとか言うなよ……し、下さえ見なければこんなの……
おお、頑張るじゃない?
まあな、こ、これくらい何ともないよ。
へええー。
ていうか、お前だって、下からパン……あぁっ、ズボンか、見えないな。
えへへ、まあ見えても平気だもんねー。今日は勝負パン……んぐっ!!!
なんでもない!
おう? なんだよ。
何でもない!
げっ、うわあーー!
あはははは。
アウトアウト、アウトー!
ほんとに苦手なのねえ。……しょうがないなあ。

こうして、手を繋いでれば、少しはマシになるんじゃない?
うっ、……うん。
じゃあ、しばらくこうしてようよ。
ありがとう、薫。
いいわよ、別に。

……あっ。見て、雪!

ホワイトクリスマスか。
うん、すごくすてき……
そうだな。
ねえ、こうして降る雪を見下ろすなんて、ちょっと不思議じゃない? なんか得した気分ね。
はは、こんな偶然そうそうないよなあ。
うん。なんだか吸い込まれそう。
ああ。
ねえ。……こうやって高いところから見てるとさ、この街ってすごく小さいと思わない?
そうだね。
でも、あたしはここで生まれて、ここで育って……。
うん。
ここで……恋をしたんだよね。
えっ? ……うん。
あたしね、今日は純一に伝えたい事があるの。

悪友、相棒、腐れ縁……あたしたちの関係を表わす言葉はいっぱいあるけど、そんな距離じゃもう我慢できないの。
薫……。
やっと気付いたの、自分の気持ちに……今までのあたしはね、いつもあんたをひっぱり回してるつもりだった。でも、それはちょっと前までの話。

いつのまにか、あたしはあんたに魅かれてたの。
……。

長い時間をかけて、一つ一つ思い出を積み重ねたから、この想いに行き着いたんだと思う。
うん。
あたしはね、あんたの悪いとこ100個は言える。でもね、いいとこは101個言える!

純一、あたし、あんたの事が好き!

ぷっ、あ、あはははは……
な、何よお。
かっこ悪いなあ、僕。
今ごろ気付いたの?
薫に似合わない事言わせちゃった。
ほんとよ。バカ。……えっ?
こんな僕でいいなら、ずっとそばにいるよ。ずっとハッキリしないままだったけど、今は自信を持って言える。
うん。
僕はいつも薫と一緒にいたいって。一緒にいていいかな。
それじゃ一言足りない……。
わかってるよ。
ふふ。
僕も、……僕も、薫が好きだ。
……うん!

ああ、家の方のバスもう無いや。
じゃあさ、家に来る?
え?
今日、父さんと母さんは温泉に旅行に行ってるし、家にいるのは美也だけだから。
ああ、いや、迷惑かけちゃうしいいよ。ファミレスかコンビニで時間つぶすから……。
いや、そんな事させるわけにはいかないよ。
ほんとにいいの?
うん!
じゃあ、そする…。

お邪魔しまーす。
しぃーっ!

へえー。ね、よくよく考えるとさ、あたしたち結構付き合い長いのに、こうして部屋に来るのって初めてなんだよねー。
ん、そうだっけ?
うん! 結構綺麗にしてて驚いた。
どんな部屋を想像してたんだよ。
もっとこぉ~~なんていうか……
やっぱ言わなくていい。
そお?
ううっ!
どうしたの?
うん、ちょっと……まずっ!

理解のあるいい妹じゃない。いひ、で、お宝ビデオってこれのこと?
うおああっ! ……しーっ!
ねえ、それよりあんたの部屋の押入れって、どうして星がついてるの?
ああ……、僕のとっておきの場所だからな。
押入れが?
うん。
ハッキリ言って変。
ちょっと傷付いたぞ。
冗談よ。ふっ、傷口舐めてあげようか。
ええっ?
ふふ、これも冗談。
ん……もう寝よう。
うん、じゃあ一緒に寝る。
……それも冗談なんだろ?
ううん、本気よ。床はやだ。
ほんとに一緒に寝るのか?
平気よ。ちょっと横で寝るだけじゃない。朝美也ちゃんが起きる前には帰るんだし。
じゃあ僕は押入れでいいよ……。
一緒でいいじゃない。
で、でも、それはさすがに……
星よりいいもの見せてあげるからさあ。
いいっ、ん……!
冗談よ!

それじゃ、おやすみ。
う、うん……。

(ちょ、ちょっと寝顔見るくらいいいかな……

んふ。
うおっ、あああっ、起きてたのか……
ね、何考えてたの?
何って……
こんなこと?

(TV)
ね。
ん?
あたしたちの関係も一歩進んだし、もっと楽しい事がいっぱい待ってるよね。
そうだな。

(DVD)
雪、解けちゃったねー。
ああ。(結局眠れなかった……)
ね、まだこの自転車あったんだ。
僕の愛車だからな。
中学の頃は、これであっちこっち行ったね。
ああ。
よく二人して遊んだもんね、…楽しかったー?
まあな!
これからも楽しいよね!
うん。
あたしたちの関係も一歩進んだわけだから……
あっ、ああ……。
もっと楽しい事がいっぱい待ってるよね。
そうだな。
これからも、運転よろしくねー。
はいはい。
さーすが! やさしー!
薫はこの後どうするんだ?
そうねえ、バイトまで時間もあるから、帰って寝直すわ。熟睡できなかったから。
えっ……。
えって何よ。あ、寝てる間にもしかしてあんた!
い、何もしてないよ!
なーんだ。
なーんだ、って…。おい! しっかり掴まってろよ。
んん? ……いひひ。
うわあ、バカ、わっ、あぶな!
だーってしっかり掴まってろって!
う、は、離せ!
いーや、離さないよーだ!
あ、ああぶな、か、薫!
ぜったい離さなーい!
こら、こらー!
ははは、はははは!


なずぇー なずぇー