Radiohead Japan Tour 2008.10.04. さいたまスーパーアリーナ(レポート)


世界で最もレディオヘッドの演奏がうまいバンド、レディオヘッドの来日公演がさいたま新都心であったので見に行ってきた。
四十代最高のクネクネアーティストと名高いイギリス人トム・ヨークのクネクネパフォーマンスを、四年ぶり生で拝見できるありがたい機会である。
しかし、「さいたま新都心」なんて駅名は、さすがの埼玉県民も「プッ」と漏らしてしまうのではないだろうか?
第三新東京市は愛媛にあるというとの事だが、第二の方はさいたまにあったという事だろうか。
と思って今調べてみたが、第三は神奈川で第二は長野らしい。

さいたまアリーナはとてつもなく大きいハコで、僕の座席は二階の本当にはじっこの方だった。
はじっこだったので左はなく、右にはおとなしそうな女性が一人で座っていた。
一階は立ち見になっていて、人のあたまがシジミのようににょきにょき並んでいる。
客層はパツキンキッズからスーツの黒人まで様々で、クネクネパフォーマンスが幅広い年齢層に愛されていることがわかる。

ライブは三時半会場五時開演とのことで、僕は五時ギリギリに着いたのだが、前座が30分機材のチェックが30分で、実際に始まったのは六時過ぎからの事だった。
こういう事は慣れてないので、僕はお腹が空いてたしトイレにも行きたかったのだが、「もうすぐ始まるかも」「今度こそ始まるかも」で結局一時間動けなかった。
そんなひもじい思いの中、前の列斜め右の女性三人組がおもむろにケンタッキーをむしゃむしゃ食べはじめて、いよいよ悲しい気分になった。
骨の扱いに苦労してるようで、いろいろ回しながらちょっとかじったりまた離したりしていた。
なんで骨なしを頼まなかったのだろうか?
しかし、意外と早く食べ終わったので、それ以上ケンタッキーの匂いに胃袋が悲しむ事はなかった。
と思ったら、今度はどっかからソーセージとナンのサンドイッチを持ってきてもぐもぐ食べ始めた。
おそらくこのような人たちが、フジロックに行ったりするのだろう。

ところで僕はこれまでいくつかのライブに行ったが、総じて棒立ちだった。
棒立ちのほうが良く見えるし良く聞こえるからだが、今回は上述のサンドイッチ事件の影響により、この三人組に抵抗する意味でも、カラ元気を出して徹底的にノッてみる事に決めた。
といっても、僕はノるという事がよくわからない。
昔大学の寮のパーティーで、ぼんやりしてたら「ノらなきゃ!楽しくないよ!」と知り合いの知り合いに言われた事くらいしか、思い当りがない。
「お気づかいありがとうございます」とあの時言ったが、本当は「ノるとはどういった事でしょうか」と聞いておくべきだった。
まさしく、聞かぬは一生の恥である。

しかたがないので、家で一人でレディオヘッドを聞いている時に、どういう状態になってるか?を鍵として、それを比較的充実に再現してみようと考えた。
つまりクネクネとエアギターを組み合わせた全く昔ながらのキレる二十代である。
エアギターははずかしいので、今回はヒザポンドラムを新たに組み合わせる事にした。


六時すぎ、メンバーたち入場する。二階席総立ち。
最初のナンバーは最新アルバムのオープニング「15 steps」。
下の動画の1:12からが最高にカッコいい、トムのクネクネもよく映えるナイスソングで幕開け。

『なんで最初のところに戻ってるんだ?
『どこで道を間違えたんだ?

続いて、これがなければ始まらない、レディオヘッド恒例のトムの名MC「こんばんは」を挟み、新世紀の幽霊こわいソング「There There」。トリプル太鼓のドゥンダッタドゥダットゥンに、開始早々場内のテンションは最高潮を迎える。

『単にいる気がするからって、本当にいるとは限らない
『(肩になんか乗ってますよ、肩になんか乗ってますよ)

続いて息つく暇もなく、場内でテレビニュースの「小川容疑者は……」の音声がこだまする。
レディオヘッドでニュース音声が流れる時は「The National Anthem」が始まるというお約束だ。
ぐにゃぐにゃとアナウンサーの声がまがり、ベースのあの一発屋的リフがうなりはじめる。

『ここにいるみんな
『ちょっと近いよ

完璧といってよい曲の運び、トムのクネクネも高いレベルを維持しつづけている。
場内のテンションもピーク届きっぱなし、レディオヘッド最高だ!

と、ここで一息つき、静かな曲をやりはじめる。就職できてよかったソング「Lucky」と、「お前しかおらへんのや」の浪速マインドのラブソング「All I Need」。そしていよいよ今アルバムで十年ぶりに甦った傑作ナンバー「Nude」に流れこむ。

『身丈に合わない考えはやめろ
『どうせ叶わない

やはりトムはクネクネアーティストをやめて、ボーカリストになるべきではないか、そんな事を考えさせる素晴しいボーカルである。このあとカラオケで歌ってみたが説得力の無さにワロタ

サンドイッチ三人組がいつのまにか座っているのをモノともせず、前アルバムから二曲「Where I End And You Begin」「The Gloaming」。そして今アルバムで最も好きな曲、「Arpeggi」きた!

『海ぞこを蹴って
『逃げろ

超かっこいいベースラインと超かっこいいギターアルペジオ、海をテーマにした曲だけあり、すばらしい海感、時間が止まったかのような、揺れる光と、立ちのぼる気泡を眺めているかのような、そこにエドの「えーいあー」のバックコーラス、関係ないが腰が痛い、うーむすばらしい。

ヘトヘトになった頃を見計らって、今アルバムの最終ナンバー「Videotape」、続いてまさかのB面曲「Talk Show Host」。数あるB面曲の中でも屈指を地味さを誇る曲だが、轟音ギターの暴れまくりアレンジになっていた。すごい!
しかしB面曲なので、大勢の人が曲を知らずぽかんとしている。サンドイッチ三人組はさっきから座ったままだ。周りを見渡すと、斜め後ろ30メートルくらいのところに知り合いにそっくりな人がノリノリだった。勇気をもらい安心してのりのりになる。

さて次は我らがトムとギタリスト、ジョニーだけがのこり、ジョニー渾身のMC「はじめまして」で会場大盛り上り。21世紀最高の中休みソング「Faust Arp」に移る。中期ビートルズを思わせる(らしい、ビートルズよくわかんない)この曲、どうやら非常に難しいみたいで、しょっちゅうトムが間違えて、照れ隠しに関係ないニールヤングを歌い出すも、歌詞を忘れて「ニャアニャニャア」とごまかし始めて、もうグダグダになったところを、場外からドラマーのフィルが駆けてきて1ドル渡していった所がYoutubeにアップされていた。

結論から言うと今回もまた間違えてしまったわけだが(「Thank you, Goodnight!」って言って帰ろうとした)、トムの名誉のために言っておくと彼はクネクニストであってギタリストではないので、間違えてしまうのは仕方がない。

今アルバムの最初のシングルカット「Jigsaw Falling Into Place」、おなじみズンチャカ氷河期ソング「Idioteque」、OKコンピューターでもっとも過小評価されているナンバー「Climbing Up The Walls」(好きな曲なので、これは嬉しかった)を経て、90年代を代表する心中ソング「Exit Music」をやってくれた。

『へらへら笑えば
『いいと思うよ

このあと、今アルバムで一番聞いたであろう「Bodysnatcher」で一旦退場。
戻ってきて、「友達じゃなくてさあ彼氏になりたいんだよね」という諦めの悪いラブソング「House of Cards」をさらっと流して、トムの驚愕のMC「おはようございます」とともに今期最大の変態ソング「Bangers + Mash」。なんとトムがドラムもたたく!

『きみに噛まれたら
『もっと欲しくなっちゃった

そしてまさかのバンドの代表曲、代表すぎて逆に全然やってなかった曲、「Paranoid Android」

『おぼえてないのか
『わたしの名前を

ほれぼれする完璧な演奏、サンドイッチ三人組は座って聞いている、お風呂でコールドプレイでも聞いてればいいのに、いやいや、一人一人、好きなように音楽を楽しめばいいんです、僕が言っているのは単に食い物のうらみだ。

次は今日の金融危機を予言したかのような「Dollars And Cents」。このままAmnesiacから一曲もやってくれないのかと思ったらこの一曲やってくれた。金融危機うんぬんは真っ赤な嘘だが、ベースを効かしたライブアレンジが好きな曲で嬉しかった。つづいてなつかしの「Street Spirit」。ジョニーがギターを引きながら、ヘッドの先で鍵盤を押してキーボードを弾いている。こんなの見たことない!

一旦退場して、「Cymbal Rush」、「Reckoner」。これで新アルバムにあった10曲は全部やってくれたことになる。

いつものように、最後は「Everything In Its Right Place」。

僕はレディオヘッド六番目のメンバーにして手拍子係として、場内の手拍子をリードしていた。ナイジェルやスタンレーは順番からすると僕の後ろなんです。

一人一人ステージを後にし、歓声と鳴り止まない拍手。


終わってみると、新アルバムの曲は全部やってくれた上に、Talk Show HostやClimbing Up The Wallsなど珍しい曲を挟んでくれて、9500円もしたのだがファンボーイ的に十二分元を取ったと思わせてくれる、非常にナイスなコンサートであった。

トムのヴォーカルは最初やや不安定だったものの、すぐに調子を戻しあとグイグイみんなを引き込む。あとは毎度のことながら非常にレベルの高くまとまったアンサンブルで、とにかく終わってしまうのが惜しい、あっという間に過ぎちゃうライブ。外タレでアリーナ二日埋めるのは伊達じゃなかった。生まれて始めてライブレポートでも書いてみようという気になるわけだ。

さてまさかここまで読んだ人はいないと思うのですが、もしいるとしたらたぶんもう俺の事が好きで好きでもうどうしようもない人なのでしょう。ありがとうございます。今日も同じコンサートに行くんですが、さすがに書き疲れたし二度とこういうの書く気はない。

(二〇〇八年十月)