多くのゲーマーが知っている通り、ゲームを遊ぶという事はそれ自体が一つのゲームである。ゲームを買う事はゲームだ。ゲームを買わない事もゲームだ。ゲームのトレイラーを見る事も、ゲームのレビューを読む事もゲームだ。友達からゲームの話を聞く事はゲームだ。30分遊んだゲームの感想を3時間かけて言語化する事はゲームだ。ゲームにわくわくする事。ゲームについて考える事……ゲームを遊ぶ事はゲームだ。遊んで、遊んで、更に遊ぶ事。たくさん遊ぶ事。遊びつくす事。それらの全てはゲームであり、合わさった一つのゲームである。このゲームのプレイヤーをゲーマーと呼ぶ。
このゲームにはデザイン上の重大な欠陥がある。私が遊べるゲームは、遊べないゲームよりも常に圧倒的に少ない。子供の頃、私はこの欠陥を、親の協力が足りないせいだと考えていた。親元を離れ、一人で暮らすようになってからは、金が足りないせいだと思うようになった。今ではパンを買うようにゲームを買える余裕があるが、それらを遊ぶための時間が足りない。老いて死を待つ時間ができたら、体力と精神力が足りなくなっているだろう。結局のところこの欠陥は、死せる我々の宿命である。それは欠陥ではなく、むしろ唯一のルールなのだ。
ここに集められた65本のゲームは、私が2012年遊びそびれたゲームの一覧である。これらのゲームを遊ばなかった事に関して、私はいかなる正当な理由も持たない。どう見ても出来の悪そうなゲームや(The Expendables 2、Orion: Dino Beatdownなど)、出来は悪くなさそうだが興味の持てないゲーム(Microsoft Flight、Call Of Cthulhu: The Wasted Landなど)は含まれていない。また、自分は遊んでいなくても、友達の誰かが楽しんでいるタイトル(FTL、Rocksmith、Spec Ops: The Lineなど)は外した(論理的な説明は難しいが、あるゲームを友達が遊んだなら、半分は自分が遊んだようなものだ)。必然的に、PC向けのインディータイトルが多くなっている。
来年になっても、これらのゲームを私が遊ぶことはめったにないだろう。いくつかは手に取るだろうが、ほとんどのゲームは手付かずに残るに違いない。今この文章を書いている最中でさえ、Steamではセールが行なわれ、BIT.TRIP Voidがリリースされ、Ludum Dareの25番目のコンテストが行なわれているのだ。であれば、なぜ私は、遊びたいゲームを遊べる時間をドブに捨てて、遊ぶ見込みもないゲームたちについて書き残そうとしているのだろう? その質問に答える事は難しいが、私が今このリストを前にして感じている当惑が、一人でも多くの読者に感染してくれれば幸いである。いずれにせよ、これらが私の2012年の遊ばなかったGame of the Yearだ。または単にGame of the Yearだ。
並べ方はランダムだ。好きなように読んでほしい。良い新年を。
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2x2 Games
コマを動かして兵隊を戦わせるゲームを最後に遊んだのはいつの事だろう? クロアチアの2x2 Gamesが作ったUnity of Commandは、私に言わせればPanzer GeneralからSteel Panthers、Panzer Corps、Battlefield Academyへと脈々続く「ウォーゲーム遊んでみたいなあ(いつかは)」ゲームの最新の一本だ。コマを選んで空いたマスを選べばコマが移動できるという、ウォーゲームにあるまじき取っつきやすさと、四つ以上の色を使った洗練されたグラフィックスを持ちながら、このゲームはじっくりと取り組むべき作戦と、シンプルながらシビアな兵站の概念と、何より本気で殺しにくるAIをも併せ持つらしい。このゲームを遊びそびれたのは実に心残りだ。
Eskil Steenberg
スウェーデンのEskil Steenbergが5年をかけて一人で作りあげた、この崇高な名前のMMOは、2012年から完全に寄付ベースのフリーゲームとなった。印象派の絵画のようなこの美しい世界で、プレイヤーは互いに協力しながら(PvPは無い)トークンを集め、エネルギーを繋ぎ、建物を立て、その建物を壊しにくるAIたちを迎え撃つ(銃で)。Loveとは、このAIたちの名前でもある。
Loveがどんなゲームかは、このチュートリアル動画と、崖を登るための十数もの方法を説明するこちらの動画がわかりやすい。 このゲームを遊びそびれたのも実に心残りだ(以下、全ての段落にこの句をつけてお読みください)。
Squad
宇宙ロケットを設計し、発射させるというゲームにどうしてゆるキャラが必要なのかというと、もちろんそのゆるキャラたちがあなたの設計した宇宙ロケットに搭乗し、あなたの設計ミスのせいで凄惨な空中爆死を遂げるからだ。メキシコのSqaudが二年前から開発を続けているKerbal Space Programは、そのブラックユーモアとは裏腹に、極めて真面目に作られている宇宙計画タイクーンであり、宇宙ロケットパネキットであり、宇宙シャトルフライトシミュレータなのだが、こちらのプレイ映像を見れば、とりあえず適当にガチャガチャやってるだけでも全く問題なく楽しめる事がわかる。見た? そしたら、こちらのトレイラーもどうぞ。
宇宙ゲームは今年もたくさん出た。ボクセルベースの変わり種コンバットシムScrumbleShip(Orangehat Tech、写真左上)はIndieDBでの高評価を背景にKickstarterでの目標額を達成したし、フランス発のスペオペストラテジーEndless Space(Amplitude Studios、写真右上)は4Xの新しい佳作として名高い。なつかし月面着陸ゲームLunar LanderのリメイクLunar Flight(Shovsoft/写真左下)もあれば、Space Pirates And Zombiesの別解釈といった趣のStarfarer(Fractal Softworks、写真右下)は既に方々から高評価のレビューを受けている。
CodeHatch
中でも最も野心的で、最も多くの人々の度肝を抜いたのが、カナダのCodeHatchが開発中のStarForgeだろう。HaloともMinecraftともSanctumともCortex Commandともつかぬアルファフッテージの映像を見れば、中学生の頃夢みていたゲームが今まさに生まれようとしているのではないかと思わせられる。Unityでここまでのものが作れるという事にも驚きだ。
Data Realms
11年という開発期間にもかかわらず、Data RelmsのCortex Commandは、いまだにバグだらけの未完成品だ。しかし、美麗なピクセルに彩られた砂漠の、荒ぶる薬莢と物理エンジンの中で、金鉱を掘り、基地を建設し、脳味噌を守り、ロボットを量産し、その一体一体を操作しながら死体の山を築きあげる2D横スクロールアクションRTSというのは、そうやすやす替えの効くものではないのだろう。
血と暴力のピクセルベースプラットフォーマーはインディーゲームの最も得意とするジャンルの一つだ。競争の厳しいこのジャンルでも特に心残りだったタイトルは、今年のステルス・リバイバルにN+を風味付けしたようなStealth Bastard Deluxe(Curve Studios/写真左上)、ゴリラが出ない事が残念でならないRoar Rampage(Neutronized/写真右上)、DMCAなどどこ吹く風の、NewgroundsノリがなつかしいAbobo's Big Adventure(Team Bobo/写真左下)、Rogueを2Dのサイドスクロールアクションに大胆に作り替えたRed Rogue(Aaron Steed他/写真右下)あたりだろうか。
ローグライクの熱心なフォロワーではないが、Derek Yuによるグラフィックが5年の遅延の末ようやく加わったDoomRL(Kornel Kisielewicz他/写真左上)、ビーテムアップのようなフィールドと協力プレイが楽しそうなLegend of Dungeon(Robot Loves Kitty/写真右上)、乱数ではなくマルチプレイでの勝者が次のレベルを生成する実験作Mercury(James Lantz他/写真左下)を遊ばなかった事は今年の悔いの一つだ。このジャンルの明日を引っぱるたくさんの原石が登場したであろうゲームジャム7-day Roguelike Challenge(写真右下)のエントリー作品を何ひとつ遊べなかった事もそうだ。
Various
26回目を迎えたLudum Dareや、44万ドルのチャリティーを生み出したMojam、または偽モリニューの悪ふざけツイートに全力で悪ノリしたMolyjamなど、今年も気になったゲームジャムイベントは多いが、私が最も後ろ髪を引かれたのは「一週間でFPSを作る」というルール以外、一切の縛りを設けなかった7DFPSだった。このゲームジャムは、200弱のエントリーを集める大成功を収め、一週間あればFPSが作れる事、このジャンルにまだいくらでも新しいアイデアが残されている事を証明した。
Digipen
FPSといえば、Portalの成功以降、インディーFPSの一大サブジャンルとなっているファーストパーソンパズルゲームだが、Perspectiveのトレイラーほどの「うおおおお」感を一見で与えるものは少ない。Portalの元となったNarbacular Dropと同じく、DigiPenの学生プロジェクトから生まれたという事も興味深い。
インディーFPSのもう一つのサブジャンルと言えば、ファーストパーソン観光ゲームだろう。私が今作った言葉だが、言いたい事は伝わると思う。Dear EstherをとことんコケにしたDear Esteban(URSA/写真左上)、ローファイな雪原と音楽が印象的なYeti Hunter(Vlambeer/写真右上)、笑ってはいけないエレベーター体験MODのElevator: Source(Pixel Tail Games/写真左下)など、今年も興味深いタイトルには事欠かなかったが、中でもKairo(Richard Perrin/写真右下)の世界の放つ不気味さは圧倒的である。
Outerra
2012年の観光ゲームといえば、何はさておきAnteworldだろう。スロバキアのOuterraによるこのゲームは、ゲームというよりはOuterra内製エンジンのテックデモに近いのだが、風光明媚な世界を自由に歩き回れる機能さえあれば、観光ゲームは成り立つという事を教えてくれる。地球を丸ごと再現した、シームレスでフォトリアリスティックなグラフィックは、それ自体わくわくする魔法のようだ。
Ed key, David Kanaga
Anteworldの世界が魔法なら、Proteusの世界はまた別種の魔法だ。
Awesomepossum
観光ゲームの一つの究極として、4年前のMODだがThe Blind Monk's Societyを挙げておこう。モンティ・パイソンのスケッチのような混沌とした世界で、プレイヤーは鳥に目玉を食われてしまった修道僧として、「耳によって見る」事を学んでいかなければならない。UCLAの二人の学生が作った、20分程度の短かいこのゲームは、言わばダイアログ・イン・ザ・ダークのソリティア版と言えるだろう。
今年遊んだMODはBlack Mesa SourceとDayZだけだった。つまりPortal 2のユーザーキャンペーンDesigned For Danger(Patrick Murphy他/写真左上)、S.T.A.L.K.E.R. CoP用大型MODのMISERY(True zone/写真右上)、初代Half-Lifeの久々のトータルコンバージョンCry of Fear(Team Psykskallar/写真左下)はもちろん、Brutal Doom(Sergeant_Mark_IV/写真右下)すら遊ばなかったという事だ。
Wing Commander Saga Team
中でもWing Commander Sagaを遊ばなかったのは頂けない。22年前に作られたゲームの続編を、13年前のゲームエンジンを使い、10年かけて作りあげた、55のミッションと90分のカットシーンと7GBの容量をもつこのモンスターMODは、Star Citizenをひっさげて華々しく帰還したWing Commanderの生みの親、Chris Robertsへのまたとない呼び水であっただけでなく、PCゲームという世界の一つの象徴ともなった。
今年もさまざまなクラシックゲームが新しい息を吹き込まれた。ヘルツォーク・ツヴァイほぼそのままのAirmech(Carbon Games/写真左上)のようなやり方もあれば、Pongに文体練習さながらの36個のルールバリエーションをつけたPongs(Pippin Barr/写真右上)のようなやり方もある。ZX Spectrumの同名ゲームをリメイクしたEndless Forms Most Beautiful(Locomalito他/写真左下)は今年最も美しいと思ったゲームの一つだし、Populousに全方位シューターを組み合わせたA Nation of Wind(Jameson Wilkins/写真右下)は○○と○○の組み合わせなんてものに大概驚かなくなった私を驚かせた一品だ。
Tiger Style
○○と○○の組み合わせゲームといえば、メトロイド風横スクロールアクションと庭作りシミュレーションの組み合わせであるWaking Marsは今年もっとも風変わりなゲームの一つだった。眼力の消えた宮口精二みたいな主人公のおっさんが極めて高く評価されたのも予想外だった。典型的な「あれをここに置く」から始まる火星探検が、やがてその生態系を理解し、再生産し、維持させていく汎惑星的マネジメントゲームになるというレビューを読んで、私はまた一つ良いゲームを遊びそびれた事を知ったのだった。
Eigen Lenk
突飛すぎる組み合わせは出落ちになる。PDP-10の上で動いていたMUDのインターフェイスにQuakeばりのマルチプレイヤーシューターを乗っけるというアイデアは、ジョークの落ちにこそなれ、実際に作られる事は考えられなかっただろう。しかし、エストニアのEigen Lenkはそのアイデアを実現してしまった。プレイヤーは、8x8マスのマップの中(mapコマンドで確認できる)で、見ることと移動する事と銃を撃つ事と銃をリロードする事を全てテキストで打ちつけなければならない。Text-based Multiplayer Shooterは出落ちゲームだろうか? しかし、ものすごい速さでキーボードを打つ事は、それ自体が十分楽しい事だ。マウスを三回クリックする代わり、SHOOT SHOOT SHOOTと高速入力しなければならない自分を想像しよう。そう、これが本当の早うちゲームなのだ(会場爆笑、その後拍手)。
マルチプレイヤーゲームについて振り返ろう。MMOの分野でついぞやる時間を作れなかったのは、HitmanやFreedom Fightersのベテラン開発者たちが手掛けるMMOFPSのHeroes & Generals(Reto-Moto/写真左上)、HawkenやMechwarriors Onlineなどメック系ゲームのリバイバルの中、独自の存在感を示していたハンガリー発メックMMORPGのPerpetuum(Avatar Creations/写真右上)、やっとベータが始まったのにデベロッパーの雲行きが怪しいMMORTSのEnd of Nations(Petroglyph/写真左下)だろうか。MMOでない普通のマルチプレイヤーシューターとしては、ふがいなかったいくつかの恐竜ゲームを横目にリリースされた、飛空挺に乗ったバイキングとなって互いに大砲を撃ち合い墜落死するAir Buccanears HD(Ludocraft/写真右下。元はUT2k4のMOD)が楽しそうだった。
Daedalic Entertainment
空から落ちてきたのがバイキングのおっさんなら捨て置けばいいが、スーツケースに入った美少女なら責任を持って上界に連れ戻さなければならないだろう。問題の多いローカライゼーションや、バランスのとれてないプレイ内容を指摘する声にもかかわらず、美しいカートゥーン調のアートワークと、惑星丸ごとゴミ処理場という私好みの設定により、私は今もDeponiaに強く心魅かれている。幸い3部作の1作目なので、2作目3作目と問題を克服していけば、ドイツのDaedalic Entertainment はTelltale GamesやAmanita Design、Wadjet Eye Gamesのような新時代のポイントアンドクリックアドベンチャーを引っぱる一角になりえるだろう。ところで、件のスーツケース美少女は既婚者だ。
ポイントアンドクリックアドベンチャーは輝かしいリバイバルの真っ只中にいる。上述したデベロッパーたちの新作ラッシュの中で私が今年見過したタイトルは、Deponiaと同じく魅力的なアートワークを持つグリム童話風SFアドベンチャーAnna's Quest: Winfriede's Tower(Krams Design/写真左上)、カリブ海諸国のみやげ品のようなキャラクターデザインが一見したら忘れられないThe Journey Down: Chapter One(SkyGoblin/写真右上)、クレイアニメとボール紙で作りあげられた驚異のホラーアドベンチャーThe Dream Machine(Cockroach Ink./写真左下)が挙げられるだろう。ホラーといえば、全身麻痺の患者が見ている夢、という設定のSymon(Singapore-MIT Gambit Game Lab/写真右下)はその設定だけで私を震え上がらせる。
Haversine
Amnesia: The Dark Descentをプレイした後、私は自分がホラーゲームに向いているとは思わないようになった。だからSCP-087はそれを遊ぶための勇気を貯めている間に一年終わってしまったし、そんなわけでまた一本、面白いらしいんだけど何が面白いのかわからないゲームが年末に残ってしまった。このゲームについての詳しい説明は、日本でただ一人このゲームについて書いたyokshuさんのブログを(ネタバレにならないように)参照しよう。
ホラーの面白さはそれが引き起す恐怖にかかっているが、その恐怖を人に伝えようとした時、言葉を越えるものを言葉にしてしまう事、予測の外にあるものをあらかじめ予測させる事によって、ほとんどの恐怖は四半になってしまう。だからほとんどの人はホラーゲームについて怖いとか面白いとかくらいしか言わないし、だから私もSCP-087と同じく有名な都市伝説をゲーム化したSlender(Parsec Productions/写真左上)、ダイナミック恐怖体験シミュレーターを名乗るParanormal(Matt Cohen他/写真右上)、思わせぶりな名前自体が既にちょっと怖いThe 4th Wall(GZ Storm/写真左下)、Cry of Fear(上述)とともにHL系最恐MODとして称えられるGrey(Deppresick Team/写真右下)について、どう面白いのかがまるで説明できない。そもそも年の瀬の浮かれた雰囲気とも無縁に、部屋の隅っこで延々やった事もないゲームを紹介しているこの私自身が軽くホラーだ。
Josh Sutphin
ホラー話にオチをつけるには「でも一番怖いのは人間だよね」というパンチラインの他はない。そういう意味で、究極のホラーゲームはIntroversionのDEFCONになるだろうが、Josh SutphinのFail-Deadlyに込められた悪意はそれに勝るとも劣らない。オレンジとグリーンの二つの軍隊がファミコンウォーズ的な戦争を繰り広げるこのゲームで、プレイヤーに与えられた目標は、どちらの勢力もこの戦争に勝たないようにする事であり、できるだけ長く戦争を続かせ、できるだけ高く死体を積み上げ、核兵器による相互確証破壊が行なわれるまで、双方への兵力支援を惜しまない事だ。
Four Leaf Studios
戦争の後はロマンスの話をしよう。違法アップロードされた本庄雷太(RAITA)の同人誌に載っていた仮想のポルノゲームを、4chanの有象無象が面白がり、やがて本物のビジュアルノベルに仕上げるためFour Leaf Studiosを結成した時、それがまともなゲームになるだろうと思っていた者はいなかったし、そもそも完成する事すら予想されていなかった。しかし、5年の難航した開発の末、Katawa Shoujoは本当にリリースされ、誰もが無視しえない2012年の重要な作品の一つになった。ヒロインが全員身体障害者のポルノゲームという、二重三重に差別主義的なこのゲームのモチーフを、匿名掲示板の元名無しさんたちがどのようにハンドリングしたかは、Patrick Lum、Amanda LangeやJenni Lada、そして誰よりこのゲームの事を長く追ってきたLeigh Alexanderのレビューを読む楽しみと共にとっておきたい。
デートシムやビジュアルノベルの英語圏での広がりについては、そろそろ誰かが真面目にレポートしなくてはいけないと思う。少なくとも、最古参のHanako Games(Kishi KawaiiやLong Live The Queenなど/写真左上)やWinter Wolves(Always Remember MeやLoren Amazon Princessなど/写真右上)、それから声優のApphia Yuが自らデベロッパーを興してAyu Sakataの名前でシナリオ執筆もやっているSakeVisual(JiseiやKanseiなど/写真左下)の一連のゲームくらいは、誰かプレイしてレビューしてはくれないものだろうか? また、Ayu Sakataがシナリオ参加しているCinders(MoaCube/写真右下)もイースト・ミーツ・ウェストの新たな萌芽の一つとして興味深い。
Black Chicken Studios
アニメ調のアートワークを持つゲームは珍しくなくなった。Steam Greenlightのカタログを見ていっても、だいたい1ダースに1本くらいの割合で見つける事ができる。なので、1931: Scheherazade at the Library of Pergamumのトレイラーを初めて見た時も、ちょっとタンタンの冒険旅行っぽい、大恐慌時代の世界が舞台の珍しい乙女ゲームの一つとくらいしか思わなかったが、その思いはトイレラーの30秒過ぎあたりで打ち砕かれた。メニュー、別のメニュー、また別のメニュー、ボタン、新しいメニュー、別のボタン、メニュー、ボタン、メニュー、ボタン、メニュー!! 何だこのゲームは? UIのカンブリア爆発か何かか? それでデベロッパーを調べた所、Black Chicken Studios、あの複雑すぎて誰もちゃんと遊べなかったAcademagiaを作ったデベロッパーと同じである事を知って、少しだけ安心したものだ。そんなわけで、44369の対話画面と638954ワードのシナリオと1389のメニューをもつというこのゲームの、一つ一つのメニューの意味を知る日がいつ訪れるかはわからないが、トレイラーを見て何のゲームかさっぱりわからないゲームというのは、それだけで十分尊いものだ。
Richard Hofmeier
何のゲームかわからないゲームというと、Richard HofmeierのCart Lifeを上げなくてはならない。元々この記事は、12月の給料日を控えたある日、ふと私が「そういえばCart Life遊んでなかったな」と思い出した事から始まったものだ。だったら単に遊べばよかったのを、どうしてこんな事になってしまったのかはわからないが、ともあれ「小売りのシミュレーション」とだけ定義されたこのゲームのトレイラーから放たれた圧倒的な不穏さ、明らかなヤバさを、私は皆と共有しておきたい。何はともあれ、トレイラーを見てほしい(できればフルスクリーンで)。私はこのトレイラーを、2012年に見たあらゆるトレイラーの中でも断トツに格好よかったと思っている。
見た目のインパクトがある事は重要だ。絵本のようなアートスタイルに豊穣なナラティブと美しい音楽を絶賛されたギリシャ発のアドベンチャーThe Sea Will Claim Everything(Jonas Kyratzes他/写真左上)、Gravity Boneの続編にして、そのストーリーを「13時間のような13分」とまで評価されたThirty Flights of Loving(Blendo Games/写真右上。ちなみにBlendo GamesはFlotillaやAtom Zombie Smasherのデベロッパーでもある)、ドラッグを摂取したメイドインワリオとも言うべきVidiot Game(GZ Storm/写真左下)、今が本当に21世紀かと疑いたくなる濃厚なビキニカラテ臭に、思わずこれで面白かったらどうしようと逆に心配になってしまうAge of Barbarian(Crian Soft/写真右下。トレイラーはややグロ)を、この記事の下書きリストで真っ先に書きつけておいたのはそのせいだろう。
MIT Game Lab
MITがビデオゲームを作ったという事はどれほどのインパクトを持つだろうか? 残念ながら、ほとんどゼロだ。Spacewar!やZorkがMITで作られたという歴史をひもとくまでもなく、MITとビデオゲームは縁が深い(この記事でもMIT製ゲームを既に一つ紹介した)。それでも、特殊相対性理論をボール集めゲームに変化させたA Slower Speed of Lightは、題材とネームバリューとかわいらしい世界観が合わさって、強いインパクトと不思議な感慨を残す。かつて科学雑誌によく載っていた虹色の解説イラストや、テレビの教育番組で時たま見る事ができたCGアニメーションが、自分で操作できるゲームにまでなったのだ。
Angelina
科学とビデオゲームのコラボレーションの最先端として、Angelinaの最新作A Puzzling Presentを挙げておこう。サンタクロースを動かして、プレゼントまで導くゲームだ。サンタクロースは左右移動とジャンプができる。ステージごとに異なる特殊能力もうまく使いこなそう。やや理不尽だったりぎこちなかったりと思われる場面もあるが、A Puzzling Presentはきわめて普通の出来の面クリア型パズルに見える。ではなぜ最先端なのかというと、もちろんそれがAngelinaの最新作であり、このゲームをプレイする事で、Angelinaにフィードバックを返せるからという理由に他ならない。では、Angelinaとはいったい誰か?
Michael Cook & Computational Creativity Group, Imperial College London
Angelinaは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士課程にあるMichael Cookが同大学のComputational Creativity Groupとともに作りあげた、ゲームデザインを行う人工知能の名前だ。グラフィックや音楽こそは人間が作る必要があるが、レベルデザインはAngelinaが行う。それだけならRogueやInifinite Marioとも大して差が無さそうだが、Angelinaは自分で作ったレベルを自分でプレイして評価するという所が異なる。数千のランダムなレベルデザインと、ゲームメカニズムと、敵の動き方と、その他さまざまの要素を無作為にまとめあげ、自分でプレイし、自分で評価し、良いものを残し、数百回繰り返す。こういうの知ってるぞ、ええっと、い、いでん、し、しんか、えーと、何だっけ?
Angelinaが作り上げたゲームは、まだまだ全然面白くない。しかし、ゲームを作る上で、デザイン上の判断を行い、決断を下すものが、必ずしも人間である必要はなくなるかもしれないというのは、なかなか受け入れ難い事実だ。データ駆動型のゲーム開発をゲームデザインの死だととらえる向きも多いが、Valveを始めとする多くのデベロッパーが、オンライン上の膨大なプレイヤーたちの行動記録を元にマップの修正や作成を行う事は、昔からよく知られている事だ。もしAngelinaが、それらのデータを自由に使えるようになったら、何が起こるのだろう? ゲームをデザインするという事は、一体どういう事なのだろう?
Jordi Colomer Matutano他
FFracerはノルウェー西岸のベルゲンから首都のオスロまでを、列車で駆け抜けるレースゲームだ。おそらく史上初の列車レースゲームだ。スピードを上げれば早くなるし、スピードを下げれば遅くなる。レールが敷いてあるので、カーブでのコーナリングや追い越しを気にする必要もない。そもそも追い越す相手がいない。止まる駅も無いからストレスフリーだ。これは一体ゲームなのか? でも、グラフィックは非常に綺麗だ。そりゃあ綺麗だよ、実写なんだから! ていうか、これただのビデオの早送りじゃないか! と、まあ、笑ってRSSリーダーの「次の記事」ボタンを押すのだが、本当に笑って良かったのだろうか? 今、またはこの先自分が夢中で遊ぶゲームが、ビデオの早送りと一時停止でないと、どうして言えるだろうか? 逆に、ビデオの早送りや一時停止で、一体何が不味いのだろうか?
Terry Cavanagh
これらの事について考えるには、今日は疲れすぎてしまった。折よくTerry Cavanaghの新作、Super Hexagonのダウンロードが先ほど終わったところなので、もう今日はベッドにもぐって、寝るまでこのゲームをプレイしたいと思う。よく眠って、よい夢を。
Clavis Auは東京駐在のPCゲーマー。エンジニアとして働く傍ら、ゲームについて多くのツイートを発表している。
遊んでないゲームオールタイムベストは、Dwarf FortressとPathology。
写真は中国系アメリカ人のSF作家、テッド・チャン。