Game of The Decade 2000-2009


Preface

ビデオゲームの世界でこの10年間に起きた変革を簡潔にまとめる事は難しい。2000年3月、SCEからPS2が発売された時、いま我々を取り囲んでいるビデオゲームの環境を予見できたものはいなかった。そして今の我々もまた、かつてのビデオゲームがどのようなものであったか、微かな追憶以上に思い出す事はできなくなっている。

テクノロジーの観点で言えば、2000年代はインターネットの時代であった。それはPCの時代でもあった。以前にもあったが、誰もが使うようになった。人々はPCで読み、書き、絵を眺め、音楽を聞き、映画を楽しむ事を知った。対話し、発表し、共有する事を知った。同じ事が電話でもできるようになった。ビデオゲームのコンソールもこれに倣った。

我々の経験した多くの変化はこの事に端を発している。ビデオゲームはかつてない規模で拡散した。あらゆる電子機器がプラットフォームとなり、あらゆる場所で開発と対戦が行なわれている。メインストリームではベヒモスの様に予算が膨れ上がる一方、デベロッパーとユーザーを隔てる壁はかつての黎明期のようにあやふやになっている。

このリストに集められた15本のタイトルは、そのような10年の中で、とくに注目すべき震源地となったものだ。いずれもこの時代を作ったタイトルであり、この時代でなければ作られなかったタイトルだ。最も出来の良かったゲームのリストではないかもしれないが、あえて自信たっぷりに断言すれば、最も重要だったゲームのリストである。

誰もが感づいているように、ビデオゲームは岐路に立たされている。これからの10年で起きる変化は、これまでのどの10年よりも大きなものになるだろう。ここでは笑い種の業界予想の代わりに、少し後ろを振り返ってみるとしよう。この10年間における達成は、実になかなかのものだ。

15 | Portal

Orange Boxの抱き合わせ販売は多くのゲーマーの顰蹙を買ったが、Valveのこの英断がなければ、今日のPortalの地位は大きく変わっていただろう。今では、"The cake is a lie."はゲーマー同士の合言葉であり、"Still Alive"はアンセムである。加重コンパニオンキューブは史上最も愛される六面体となった。

Portalには、インディーゲームの最良の形がある1。ユニークなコンセプトと、その洗練された実装と、印象深いアートワークとが、最上級のクオリティであわさった結果、唯一無二のゲームプレイがもたらされ、ゲームの可能性がまた一つ広がったのだ。FPSはパズルゲームのインタフェースになれる事がわかった。必ずしも人を撃たなくても良い事もわかった。

Portalはまた、ゲームにおけるナラティブの面でも、非常に印象深いタイトルとなった。そのストーリーは謎深く、ユーモラスで、魅惑的であり、その脚本は、人と機械と物言わぬ箱との三角関係を、最低限の言葉で最大限に描ききってみせた。ゲームの各々のレベルは、優れた舞台劇の背景としても機能した。ボイスアクティングは完璧だった。

長く語り継がれるだろうエンディングで歌われた通り、Portalは巨大な成功を収めた。それはまた、ゲームというメディアが収めた成功でもあった。

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同じくユニークなコンセプトと印象深い世界観を持っているタイトルとして、Braidを忘れる事はできない。コンセプトとアートワークのインパクトに限れば、DEFCONを凌ぐタイトルはなかなか出会えないだろう。You Have to Burn the Ropeは、エンディングの歌さえよければ全体的に何となく良いもののような気がする事を証明してくれた。

14 | Warcraft 3


2000年代、FPSがあらゆるジャンルを飲み込み巨大化していったのに比べ、RTSは未だ90年代に確立された基盤の上に立っている。しかしながら暴力と技術と経済とがないまぜになったその基盤は最初から根深く複雑であり、依然として未知と未開の手付かずの荒野を内包している。その一作一作がゲーマーたちに与えてくれる戦いは、相変わらず途方もなく長いものだ。

Blizzard Entertainmentによる2000年代唯一のRTSタイトルであるWarcraft 3は、このジャンルが未だに横の広がりを必要としていない事への良き証左となるだろう。Warcraft 2とStarcraftのメーカーの満を持しての新作は、前述の二作と基本コンセプトは全く変えずにいながら、全く異なるメカニズムを持っていた。

海戦がなくなった。内政は大幅に簡略化された。一度に扱うユニット数はざっと半分になった。モンスターを倒し経験値を得る強力で特別なユニットが導入された。戦術の幅はぐっと広がったが、各要素のバランスは緻密で、ゲームのペースは速かった。Battle.netは素晴らしかった。多くのコンセプトが様々なタイトルに継がれていった。

しかし、Warcraft 3を語るにおいて真に重要なのはRPGから鬼ゴッコまでこなすエディタかもしれない。広大なMODの中でも、DoTA: Ancientsは、RTSに隠されていた大きな鉱脈を明らかにした。また、もはやその起源がこのゲームにあった事すら忘れられているTower Defence系の数々は、特にカジュアルゲーム市場で我が世の春をうたっている。

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ことRTSというジャンルにおいて、Blizzardの唯一のライバルはRelic Entertainmentである。Comapny of Heroesは、Warcraft3とならんでここ10年の最大のブレイクスルーであろう。また、Real-Time Tacticsの集大成として、Empire: Total Warは注目に値する。RTSとターンベースのミックスでは、Sins of a Solar Empireの巻き起こした風が記憶に新しい。また、本文で対立的に書いたFPSとRTSだが、Natural Selectionなどでは幸福な結婚を果たしている。

13 | Sam & Max: Season One


1. Portal自体はインディーゲームではないが、学生たちの卒業プロジェクトだったものが、IGFで大きな注目を浴び、最前線のデベロッパの目に止まったという経緯を考えれば、一つの成功例としてみなす事はできるだろう。